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ぺらぺらと喋られるよりは、黙りこくっていてお礼程度しか口にしないほうが、安心できる。少なくとも、俺が同じ情況になったら、自己紹介だのなんだのをする元気はないし、もしかしたらお礼さえも口に出せないかもしれない。
あまり、近くに居ると、プレッシャに感じるかもしれない。俺はほーじくんと一緒に、三人からはなれたところに移動して、腰を下ろした。女性はお祈りをしてから、おかゆに手をつけようとしたみたいだけど、手鍋にはいったお匙をつまんだ格好でためらっている。
「……の」
女性は顔を伏せたままこちらを向いて、かさかさして力のない咳を、一回した。「あの。もし、お持ちだったら、いばらのかんむりをかしていただけませんか」
たんが絡み、掠れたり裏返ったりする声だったが、意味はわかる。俺は収納空間から茨の冠をとりだし、立ち上がろうとする。と、ほーじくんがそれをひったくるみたいにして、女性まで運んでいった。女性は茨の冠を押し戴き、お祈りをはじめる。声はほとんど出ていなかった。
ほーじくんはなにか不安があるのか、女性に背を向けないようにしながら戻ってきて、座るやいなや俺の肩に腕をまわす。それなりの力がかかってきたので、俺はほーじくんのしたいことを察し、彼の膝の上へ移動した。
ほーじくんは俺をぎゅっと抱きしめ、どこかに隠れているみたいな呼吸だ。お祈りする女性を険しい表情で見ていた。そういえばほーじくんは、一日四回あるというお祈りを、このところしていない。
荒れ地では鐘も鳴らないけれど、だからって休んでいいというものでもないだろう。なにか、したくない理由があるのかもしれない。俺が気付いていないだけで、よなかと朝のお祈りはしているのかな。
ほーじくんは俺を膝に置き、両手で抱いて、不安そうに前後に軽く揺れている。目蓋が度々、不自然にすばやい動きで瞬きをした。顔色もよくない。
女性はお祈りをすませ、仲間達にお水を飲ませてから、もう一度食前の祈りを捧げ、ひえたおかゆを口にいれた。
日が落ち、寒くなってきた。エクシザとタスが出入り口辺りに移動する。その段でも、ほーじくんが横になるのをいやがっているみたいなので、毛布や毛皮のローブをとりだした。毛皮のローブはほーじくんに羽織らせ、毛布で脚を覆う。ほーじくんは俺をローブで包むみたいにした。杖も、手の届く範囲に置いてあって、どうやらかなり不安になっているらしい。
サキくんが風邪をひいた時、こんなふうにしたっけ、と思い出して、ちょっとだけ切ないような気分になった。
誤字報告ありがとうございます。助かります。




