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女性はまったく、献身的だった。癒し手など、傷病者のお世話をする機会の多い職業なのかもしれない。
仲間ふたりの額に手をあてたり、めやにをとりのぞいてあげたり、顔の汚れを髪で(!)拭いてあげたり、献身的としかいいようのないことをしている。単なる荒れ地おくり同士には見えない。もともと知り合い、というか仲間で、一緒に荒れ地へおくられたのだろう。
でも、一緒におくるものなのかな? 団結して戻ってくるのが、楽になりそうな気がする。
俺達は三人から少し離れて、食事の続きをした。俺はみんなよりも先に食べ終え、綺麗な手鍋にブロードをいれる。マルジャンにあたためてもらって、お塩とほんのちょっぴりのこしょう、ひとつかみのオーツ麦をいれた。オーツ麦がやわらかくなるまで、マルジャンに手伝ってもらって煮る。
できあがったものを、手鍋ごと、三人の許へ持っていった。雑穀クラッカーをもぐもぐしているほーじくんもついてくる。タスは三人、というか、少なくとも女性には危険性はない、と判断したんだろう。ついてこなかった。
「あの、よかったらこれ、どうぞ」
手鍋を女性の傍らへ置く。女性は戸惑ったような顔で俺を仰ぎ、ぎこちなく頭を下げた。「ありがとうございます」
「なにか、必要だったら、云ってください。持っているものなら、分けられますから」
女性はそれにはなにも云わず、咽をぐっと云わせて俯いた。
俺もタスと同じで、三人に危険性を感じられない。直感だけれど、危ないひと達ではない気がする。
直感……というか、なんだろうな。
まあ、俺の出会いが偏ってるだけだろうけれど、俺が出会った人攫いだの殺人犯だのは、みんな饒舌だった。弁の立つ、やけに気さくで、ずけずけとひとのパーソナルスペースに這入りこんでくるような不躾さと失礼さを持っていた。
それに比べると彼女は、朴訥というか、ほとんど喋らない。意識を失っている仲間に対して、低声で少しだけ喋りかけているらしいが、大丈夫ですよとか、よくなりますよとか、その程度だ。それに、俺達に対しては、お水を要求したのと、ありがとうございますとお礼を云ったくらいで、それ以外は喋っていない。自己紹介さえしていないのだ。
それは、ここじゃなかったら失礼なことかもしれない。でも、ここは荒れ地だ。彼女はどこかの地域で罪を犯したと判断されて、ここに遺棄されたのだ。
極限状態に追い込まれ、痩せ細って脱水症状の出ている人間が、陽気に自己紹介なんてしてみろ。こわいし、異様なものを感じる。




