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俺の、御山の下働き同期は、全部で十四人居る。
この男性には見覚えがない。まったく、ひとかけらも知らないひとだ。
俺の同期の、家族、親族、恋人、ルームメイト、知り合い、パーティメンバー……と、いろいろと可能性が頭をよぎった。
俺はしばらくこちらの世界を離れていた。その間に、同期が下働きを辞めてもおかしくはない。結婚して退職するというのは不自然ではないし、ほかにやりたいことが見付かって辞めることだっておかしくない。
そもそも、給料がいいから御山につとめていて、お金が貯まったら辞めるつもりだったひとだって居るだろう。お金がいいから御山で働いていると公言してはばからないひとは沢山居たし、俺の同期にそういうひとが居なかったなんて思わない。奉公というのは、別に精神的な修行でも、なにか高尚な行為でもないのだ。いち仕事に過ぎない。目標金額まで達したら辞めて、田舎で塾を開くとか、商会を興すとか、そういうふうに考えたってなにもおかしくないし不敬でもない。
だから、理由があって御山を去った俺の同期が、この男性と親しい間柄で、自分にとって大事な指環を渡したのかもしれない。戻ってこられるようにと、願いをかけて。
それから考えたくないが、このひと達が強盗で、俺の同期から奪った、ということもありうる。寄付をうけとりに御山を離れることは、奉公人ならあることだし、どんなに警備をきちんとしていてもどうしようもない時は存在する。
西の二の門を強行突破することだって理論的には不可能じゃない。
怨恨、ということだってある。バルドさんがストーカに襲われて、髪を切られたのを思い出した。そんなふうにして、好きなひとを毀損しようとするひとは存在する。
犯罪の証拠のような品で、それが効果のないものだったら、反省を促す為につけさせたままで荒れ地に遺棄するというのは、考えられないことでもないだろう。
勿論、このひとが金とプラチナの指環をしていたのはたまたま、という可能性もある。
そう考えて、笑いそうになった。同期が荒れ地おくりになる恋人へ渡した、とか、同期が強盗に襲われて奪われた、という考えよりも、たまたまプラチナの指環をつけているというのが一番考えがたい。
荒れ地で死ぬかもしれない時に、プラチナのわっかの指環? 冗談でもつけていかないぞ。男が「偽ものの銀」を身につけて死ぬつもりだったとでも?




