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俺は砂を踏んで、ゆっくりとほーじくん目指して歩いた。マルジャンがとびはねてついてくる。ヴェルツ達は、怪我をしているようには見えないから、タスが偸利でもつかったんだろう。偸利はつかいすぎると相手が枯れたようになってしまうけれど、丁度いいところでとめればこんなふうになる。
タスは魔力が高いからか、戦い慣れているからか、魔法のつかいかたが綺麗というか、うまいのだ。俺は加減が苦手で、「殺しすぎる」。必要以上に魔力を消費して、無駄に魔物の体を枯らしてしまったり、崩してしまったりする。
エクシザが男性を転がすのをやめ、けんと鳴いた。ほーじくんと俺は、揃ってそちらを向く。「エクシザ、どうかした?」
エクシザが男性の体を転がしていた理由がわかった。男性の手指には、指環がはまっているのだが、エクシザはそれを数回、器用にくちばしでつついた。俺に報せたい、俺に見せたい、ということだろう。もしかしたら、あの丘を、転がして運ぶつもりだったのかも。
滅却をすませたほーじくんが、まずゆっくりとそちらへ歩いていった。俺もそうすると、ほーじくんは肩越しにこちらを見る。「マオ、あまり近寄らないで」
「うん……」
「危険かもしれない。そこで、じっとしていて」
ほーじくんはいつになくしっかりはっきり云い、俺が頷くのを見て安堵したらしかった。しゃがみ込んで、気絶している男性の指から指環をぬきとる。エクシザが満足げにして、ヴェルツの死体の傍へ歩いていった。さっそくついばんでいる。
ほーじくんがこちらへやってきた。差し出されたものを、両手でうけとる。ころんと、俺の掌で指環が踊り、ぶつかって涼しいような音をたてる。
金とプラチナが、ひとつずつ。
飾りけはない。宝石もない。彫りもない。幾つかの金属が組み合わせられている訳でもない。ごく単純な環だ。
荒れ地おくりになる人間は、粗末な服しか与えてもらえないし、武器などは絶対に持たせてもらえない。それは聴いたことがある。
だが、こちらの世界では、装飾品は男性である証、アイデンティティの一部なのだ。
このような単純なわっかでしかない指環は、おそらく武器にはできないし、勿論食べることもできない。そしてこういうものは、効果はないのがほとんどだ。効果のないものであれば、とりあげないでくれるのかもしれない。
というか、だからこそこの男性が指環をはめたままここで気絶していたのだろう。
俺が同期のみんなとお揃いにした指環と、よく似た指環をつけて。




