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ほーじくんはきょとんとした。俺は首を傾げる。
「ほーじくん?」
「……そういえば、あにさま、なにも云ってこない」
ほーじくんは、自分がお兄さんと一緒に行に来ていたのを忘れていたらしく、ちょっと考えている様子だった。
「多分。あにさま、伝糸が届く範囲が、ひろくないから……そこから、ぼくが外れてるんだと思う」
「あ、そういうことか」
成程な。
ひろいせまいの感覚がわからないが、弟であるほーじくんがそう云うんだから、サーダくんの伝糸が届く範囲はひろくないのだろう。そもそも荒れ地が、めったやたらひろいからな。ほーじくんが力の限り飛んだら、かなり距離をあけてしまったってことはありうる。
そのあとは、俺が足をひっぱっている所為で、移動は相当ゆっくりだし。ほんとごめん。
タスは行ってしまったし、エクシザは戻らない。ちょっと不安になってきて、俺は砂の丘を示した。「エクシザ、見てきたいんだけど、だめかな」
「一緒に行く」
ほーじくんはそう云って、俺の腕をはなさない。俺はなんだか嬉しいみたいな気持ちになって、にやにやしてしまった。
マルジャンとヤラにも意向を訊いたところ、どうやらふたりともエクシザが(むちゃくちゃをしないか)心配らしいので、揃って砂の丘をのぼった。勿論俺が足をひっぱっている。ぐえ。
ほーじくんにひっぱってもらい、マルジャン達におしてもらって、苦労して丘をのぼった。たいした高低差ではなかったのがさいわいして、俺にしてははやく。
丘の上から反対側を覗くと、粗末な麻の上下を着た男性が、エクシザに蹴爪でつんつんされていた。その近くには、麻のドレスの女性がふたり倒れている。凶悪犯罪をしたようには見えないけれど、見た目で犯罪者かどうか判断できたら警邏隊は要らない。
「エクシザ……」
呆れたみたいな声が出た。ヴェルツの死体はまだ沢山あるのに、エクシザは何故か、人間の男性に興味を持っている。人間はまずいから食べない、と云っていたけれど、急に人間の味のよさがわかったんだろうか。
単におもちゃで遊んでいるような気分で、無抵抗の男性の体をころころ転がして居るのだろう。凶悪犯罪者だとわかって私刑をしている、という可能性はないな。なんか楽しそうだけど、ほんと、あいつ、わからん。
「滅却、したほうがいいかな」
「あー……」
ほーじくんは、ヴェルツの死体からたちのぼる魔を見詰めている。この子は芯から祇畏士に向いているみたいで、漂う魔を放っておけないのだ。




