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「え、でも」
俺に対して、ほーじくんはゆっくりと頭を振る。真剣な表情に、俺は口を噤む。なにか、まずいんだろうか。
「人間の声」ほーじくんはしゅっと息を吸う。「に、聴こえる、けど。そうじゃないかも」
「……ええと、どういうこと?」
ほーじくんは軽く肩をすくめて、俺をひっぱる。ひっぱられるまま、俺はちょっと動いて、ほーじくんにぶつかった。片腕で、軽く抱かれる。ほーじくんは落ち着きなく、羽を震わせ、俺の体をそれで包んだ。
「魔物が、人間の声を、真似する……」
ほーじくんの言葉を理解するまで、ちょっと時間がかかった。意味が通ると、俺は口をぽかんと開ける。二秒くらい声が出なかった。
「そんなことできるの?」
「できる魔物も、居るよ」
そうか。ああ、普通に会話していたから忘れてたけれど、そういえばタスはレットゥーフェル、魔物だ。
使役している俺以外の耳に、きちんと人間的な言葉として聴こえているのかはビミョーなところだが……使役していない状態でも、頭領(仮)と俺は会話が成り立っていた。会話に見えて単におうむみたいに聴いたことのある言葉を繰り返しているだけ、ではない、ちゃんとした会話だった。
ってことは、少なくともレットゥーフェル達は、人間の発声と近いことができるということだ。
俺の言葉は、もしかしたら言語:異世界のおかげでレットゥーフェル達に通じたのかもしれない。レットゥーフェルがこちらの言葉を喋っているというほうが、違和感はない。
レットゥーフェル以外の魔物が、人間の発声を真似できない、ということもない。現に、コマちゃんが使役しているポルンちゃんは、ぎこちないけれど喋っていた。あの子は、ドゥネーマだったっけ。大地の精霊の親戚といわれる、はっきり見ていないが人間に似た見た目の魔物だ。あの時も、コマちゃんとの会話はきちんと成り立っていた。
会話できる魔物が居るのだ。この辺りに居る魔物が、人間の悲鳴に似た音を出せても、まったくおかしくはない。この場合はそれこそ、おうむやいんこのように、真似するだけでいいのだ。意味のある言葉は要らない。
第一に、この辺りにレットゥーフェルやドゥネーマが居ないという保証はない。ほーじくんは、レットゥーフェルは普通荒れ地には居ない、というようなことを云っていたが(たしかにタスは荒れ地に慣れていなかったけれど)、ほーじくんが知らないだけで、荒れ地の凄く深い地域にはレットゥーフェルが住んでいるのかもしれない。行でだって行かないような、深い地域に。




