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水場から離れて、二時間くらい、経っただろうか。水分補給をする為に一旦立ち停まって、マルジャンに頼んで氷をつくってもらい、エクシザにくわえさせていると、くぐもった悲鳴が聴こえてきた。
ほーじくんと俺はびくっとしてそちらを見、間髪容れずにタスとエクシザが舞いあがった。エクシザは氷をまるのみにしたらしい。「タス?」
「見てくる」
タスは鋭く云い、はばたいて飛んでいった。エクシザが半テンポ遅れて続き、砂の丘の向こうへ行ってしまう。
悲鳴は、あちらから聴こえた、と思う。砂の丘が遮っていて、不明瞭だったけれど、今のって人間の声だよな。ってことは、荒れ地おくりになったひと達?
だとしたら、あんまり関わり合いになりたくない。攻撃してきたらいやだ。人間と戦うのは、骨が折れそうだし、気分もよくないだろう。考えるまでもない。
仮に友好的だとしても、対処に困る。信仰云々で荒れ地におくられたひとなら、信じられるかもしれないけれど、アフィテルディやウロアみたいな例があるからな。こちらが荒れ地おくりにされたのではないということは、見ればわかるだろうから、騙そうとして近付いてくることだってあるだろう。
荒れ地おくりにされたひとかどうかは、額を見ればわかる。でもそれ以外のことは、額ではわからない。そういう話は聴かない。
どういった罪状で荒れ地おくりになったのかは、こちらが判断するしかないのだ。その人物の格好や、喋ることで。
生憎、俺達のなかに裁定者は居ない。マルジャン達にもそういう特殊能力を持っている子は居なかったと思う。だから、騙されたらお仕舞だ。重犯罪者の荒れ地脱出を手伝うような真似はしたくない。荒れ地から戻ったら、どんな人間でもすべての罪をゆるされてしまうのだもの。
判断を迫られたくない。俺は責任を負いたくないのだ。
荒れ地おくりになった人間が、裁判の判決結果の書面を持ってきてくれることもないだろう。そもそも場所によっては、裁判はない。
でももしかしたら、行や収穫に来たひと達かもしれない。あの水場で見た人数では考えられないが、少ない人数もしくはひとりなら、魔物から逃れていたらどうしようもなく東へすすんでしまう、ってことも、ありうる。
そういうひとを見捨てるのは、気分が悪い。俺は最初、収穫に来ていたダストくんに助けてもらって、荒れ地から出られたのだ。その俺が、遭難しているひとを見捨てるのは、違うと思う。
そこまで考えて、タス達を追いかけようとしたが、ほーじくんが俺の腕を掴んで停めた。「マオ、だめ」




