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シアナンさん夫婦は話し込んでいたようだが、こちらを見て口を噤んだ。
じゅうたんへ座る。「あの、これ、つかってください」
「……大きい壜ね?」
2㎏壜買いましたからね。
じゅうたんの上へ壜を置いた、ランタンの明かりの下で見ると、くもりがらすふうも悪くない。はじめからそういう加工だったように見える。
「はちみつです。みなさんにはお世話になってるので……」
ふたりともきょとんとした。
あ、壜が曇っちゃってるからよく見えないよな。
ふたを開ける。このふたは謎素材だろうが、まあ深く突っ込まれたらよく解りませんで通そう。実際金属とかゴムパッキンに詳しくはない。
ふたをさかしまにしてじゅうたんへ置いた。壜を少しだけ傾け、ふたりへ中身を見せる。
「あんまりいいものじゃないですけど」
「ま、まあ、はちみつじゃないの!」
なんだか驚かせてしまったらしい。シアナンさんから、どうやって手にいれたのか、と訊かれた。
買ったと云うしかないのでそうした。ふたりは不審そうにはちみつの壜を見ている。まずかったかな?
時間を戻すわけにもいかない。にこにこしていた。困った時はこうやってごまかすのだ!
「お茶にいれて飲みませんか? どくみしますよ」
「疑っている訳じゃないんだよ」
シアナンさんは歯切れが悪い。「ただ、めずらしいものだからね」
結局、飲みましょうとしつこく云って、お茶にはちみつをいれたものを飲んだ。ふたりも飲んで、狐につままれたような顔になる。
ドールさんが戻った。風呂敷包みは何故か大きくなっている。ついでに機嫌も直ったようで、にこにこしていた。「ただいま。シアナン、バド、ありがとうね。イースハは、今日は機嫌がよかったわ。布をおまけしてもらっちゃった」
「え? ええ……あのねえドール?」
「なあに?」ドールさんは風呂敷包みを棚へ突っ込んだ。「いい香りだけど」
「マオがはちみつをくれたんだよ」
ドールさんが振り返った。目を瞠っている。
「マオが?」
「収納空間持ちなんです」
いいわけになっていないようないいわけをする。「はちみつは買いました」
ドールさんとバドさんが目を交わした。なんだか困ったような顔で。
もう寝んだら? と云われ、三人へおやすみなさいを云って、はなれへ行った。シアナンさんは毎日様子を見に来てくれるそうだ。明日は、恩寵魔法や、祇畏士、還元のことも詳しく聴こう。できたら。
異世界二日目の夜は、きちんと歯を磨いた。収納空間にはぶらしが沢山あるのを思い出したからだ。
まだ読んでいない本もある。明日も頑張るぞとらしくもなく気合をいれてから眠った。




