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「じゃあ、近くには居るかもしれない?」
「可能性はある」
タスはそう云って、肩をすくめた。「わたしも痕跡を残したい」
マルジャン達のご飯にまで考えが及んでいなかった。俺は謝って、マルジャン達も呼び寄せ、食糧をとりだす。エクシザには、タスに持っていってもらった。生肉だ。
マルジャン達にはふかし芋、タスは水分の多いものがいいそうなので、くだものを渡す。水気がほしいというのなら、沙漠はつらいだろう。
「ほーじくんが、西のほうに水場があるって云ってたけど」
「ああ……あれに気付いたのか。目がいいのだな」
タスはみかんを皮ごと口へ放り込む。「わたしはある程度近寄るまでわからなかった」
「そっちに移動するって云うのはどうかな」
布をたらしていない部分へ目を向ける。そこから見える空は、赤っぽくなっていた。沙漠は遮るものもないし、空気も乾燥していて、それに澄んでいるみたいで、夕焼けが尋常ではなく赤かった。
タスは数個目のみかんを手にとった。俺はタスの傍に、ルバを何個か置く。
「無理ではないだろうが、この辺りはヴェルツが多すぎるな。苦労しそうだ」
「べるつ?」
「ヴェーティとも云う。お前がチャタラと一緒に戦った相手だ」
ああ、あの、ぴょんぴょん跳ねるやつ。
タスとエクシザは、みまわりであいつらの群れを発見し、ある程度数を減らしてくれたそうだ。死体の半分以上をタスが還元した。残りはエクシザが食べたらしい。
エクシザを見ると、おいしそうに生の牛塊肉を食べていた。あいつ。
じっとりエクシザを見る俺にかまわず、タスは冷静に続ける。
「小さいものなら問題ないが、昼間のような大物が居ないという保証はない」
「え、……ちょっと待って、あの小さいのと、大きいの、同じ種類なの?」
タスは頷く。なんとなく、呆れられているらしいのはわかった。いやいやいやいや知るかそんなこと。
ヴェルツは荒れ地だけではなく、洞窟や廃墟などにすみつく魔物だそう。小さいうちは群れて、魔が濃くなると巨大化し、単独行動する。
で、やっぱり悪しき魂持ちみたいで、冒瀆魔法をつかうらしい。だから、同じく冒瀆魔法をつかうレットゥーフェルのタスが、ヴェルツのことをくわしく知っているのだ。冒瀆魔法をつかえる同士だと、効果が弱まる。
俺があいつらを見ているとぼーっとしてしまうのは、叫喚に似た効果をあいつらが常に放っているかららしい。それも悪しき魂依存なのか、冒瀆魔法をつかえる人間には効果が弱くなっていて、だからぼーっとするくらいですんだそうだ。悪しき魂持ちじゃなかったら、小さいけれど恐怖がわくらしい。




