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そう云ってから、使役がなにか、という部分から説明すべきなのだと気付く。それに、タスが云っているからもう知っていると思うが、俺が魔王だということも説明しないといけない。
「それと」左掌をほーじくんへ見せる。「ごめん。黙ってたけど、俺は悪しき魂持ちで、職業は魔王」
ほーじくんは手も口も停め、俯いたまま、上目遣いで俺を見ている。どういう感情なのか、俺にはわからない。なので、もう一度謝る。
「ほんとにごめん。騙してたのは、本当に悪いと思ってる。ただ、いいわけすると、悪しき魂は」
「滅却されちゃうよ」
ほーじくんがか細い声を出した。項垂れ、その顔は完全に、俺からは見えなくなる。膝の上のサンドウィッチを、ほーじくんはぎゅっと握ってしまっていて、中身のきゅうりがとびだしていた。
彼の顔を覗きこもうとする。「ほーじくん?」
「悪しき魂は、滅却するんだって、それが正しいって、教わった」
「うん」頷いた。「だよね。だから、ほーじくんは、当たり前のことしただけだもんね」
「どうして、しかってくれないの」
ほーじくんの声は震えている。どうも、泣いているらしい。
可哀相で、ほーじくんの肩をそっと撫でた。震えている。「ぼくのこと、きらい?」
「どうして? 好きだよ」
ほーじくんは顔を上げる。目のまわりが赤い。涙がつっと、頬を流れた。ほーじくんは、怒っているみたいに口をへの字にして、袖で目許を拭う。
「なら、どうして、ぼくのこと、叱ってくれないの」
「叱る理由がないよ」
「あるよ。ぼくは、マオを封印した」
「だから、それは、ほーじくんにとっては当たり前のことでしょ」
「……そんなの、ちがうよ。ぼくは、しちゃだめなこと、した」
ううん?
どうして、ほーじくんが俺の怒りにこだわるのかが、よくわからない。
だってだって、ほーじくんの生育環境を考えれば、悪しき魂だの魔につかれているだの、そういうものは攻撃するのが当然だし、封印や滅却はおかしなことじゃない。そこで感情に流されなかったことを、寧ろ評価されるべきなのだ。だから、事実がわかってもほーじくんを責めるひとは居る訳がない。責められる理由がないじゃないか。だからほーじくんが、俺に怒りこそすれ、謝ってくるなんて、思っていなかった。
どう考えても、謝るべきはこちらなのだ。俺はほーじくんの肩を優しく叩き、宥めるみたいな声を出す。
「ほーじくんこそ、俺にはらがたったでしょう? 悪しき魂だってこと隠して、ほーじくんは」
「ぼくはマオを傷付けたんだ」




