3554
俺は頷く。
「じゃあ、額にしるしのないひとだったら、危害を加えないでね。もし困ってるみたいなら、ここまで案内してあげて」
「何故」
「収穫の時にはぐれて、迷ってるかもしれないでしょ。可哀相だもの」
タスはうろんげにし、それから渋々というふうに頷いた。
「額にしるしがあったら?」
「放置」
あえて近寄って、怪我をする必要はない。重罪犯ってことは、能力値が高い可能性は大きいのだ。ウロアしかり、アフィテルディしかり、ハツァルしかり。
信仰や政治的なあれこれで荒れ地におくられている場合もあるけれど、それはぱっと見では判断つかない。だから、今のところ、放置しかないだろう。
タスはもう一度肩をすくめ、エクシザへなにか云った。エクシザは面倒そうにしながら、立ち上がる。「チャタラ達、魔王をきちんとまもるように。魔王、額にしるしのある人間がこちらへ近寄ろうとしていたら、攻撃する」
出がけにそう云ったタスを、俺は停めることができなかった。
ほーじくんがバームの容器に蓋をした。俺は微笑んで、それをひきとる。
「羽、綺麗だね」
「……ありがとう」
頭を振った。
マルジャンとヤラは、タスに云われたからだろう、布をたらしていない、出入り口のような部分に、こちらに背を向けて並んでいる。荒れ地おくりにされた人間が来たら、報せてくれる筈だ。額のしるしは目立つ。布などで顔を覆った人間に対しても、マルジャン達は警戒音をたててくれることになっている。
膝の上のサンドウィッチを、ほーじくんの膝へ移した。「どうぞ」
ほーじくんは俯いていて、サンドウィッチの包みを開こうとはしない。
「食べられそうにない? くだものとか、お菓子もあるよ」
「……たべる」
決心するみたいに云って、ほーじくんはサンドウィッチを両手で掴む。ぎこちない動きで包みを開く。
俺も、お握りの包みを開いた。ひとつ掴んで、ばくっと大口でかじる。梅干しだ。おおあたり。
しばらく、無言で食べた。魔力を使役している全員に譲渡し、ほーじくんには体力も分けておく。ほんとは、ほーじくんが死なずにすんだらすぐに使役を解除するつもりだったけれど、まだほーじくんは顔色が優れないし、やつれているし、不安だ。だから、使役はそのままにしている。
ほーじくんに許可をとっておくべきだ、と、お握りみっつが消えたところで気付いた。俺はお水を飲み、マグにざくろジュースを注いでほーじくんへさしだす。「ほーじくん」
「……うん」
ほーじくんはサンドウィッチをもそもそと食べていて、声には元気がない。俺は小首を傾げ、ほーじくんににじり寄る。「あのね。さっき、ほーじくんを助けようと思って、使役した」




