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俺はバームを仕舞い、タスへ訊いた。
「また行くの」
「人間の足跡のようなものがあったし、装飾品らしいものが幾らか落ちていた」タスは俺を振り返り、淡々と云う。「もしかしたら、荒れ地おくりにされた人間が、この辺りに居るかもしれない」
それは困る。
荒れ地おくり、ということは、重罪犯だ。宗教上政治上の問題(神聖公にたてついたとかシアイル皇帝にたてついたとか)でそうなったのではない限り、凶悪な犯罪者である。ひとさらいとか、人身売買とか、殺人とかで有罪になったひと達、ということだ。
勿論、なんでも正しい答えが出る質問を行える裁定者が居るこちらの世界、冤罪で荒れ地おくりにされることはありえない。しかも、ここはどう考えても(魔物の種類などから考えて)荒れ地でも深い地域だから、世間一般で「荒れ地おくり」と認識されている荒れ地おくりである。
浅い地域への荒れ地おくりと、深い地域への荒れ地おくりでは、罪の重さの程度が違う。浅い地域への荒れ地おくりは、一般的には荒れ地おくりとさえ思われていない。
だから、タスは安全を確認したいのだろう。それ自体はありがたい。
タスは槍をとりあげる。胸当てや喉輪もきちんと装備していた。「行ってくる」
「待って。ここって、荒れ地のどの辺かわかる?」
俺の言葉に、タスはちょっと考えるみたいに間を置いて、低声で答えた。
「かなり上のほうまで舞い上がってみたが……村やまちは、少しも見えなかった。だから、相当深い地域だろう」
思わず呻く。羽繕いしているほーじくんが、ぴくっと肩を震わせて、上目遣いにこちらを見た。俺はそれに微笑み、タスへ目を戻す。ほーじくんを必要以上におどかすつもりはない。
村もまちも見えない。なら、深い地域であることは確定だ。ってことは、この辺りにうろうろしている人間は、高確率で重罪犯である。
タスにも、俺が理解したことがわかったのだろう。肩をすくめている。
「ねえ、人間が居たとして、どうするの」
「額を確認する」
タスはかぶとの位置を調整する。「荒れ地おくりにされた人間なら、額にしるしがついている」
そういえば、そうだ。綺麗な色で、槍みたいなマークをつけてあるらしい。
恩寵魔法でそういうことができると、ハーバラムさんとダストくんから聴いた。ダストくんが俺といきあった時、俺の額にそのしるしがなかったから、安心して助けてくれたらしい。そのしるしは、荒れ地から出ると勝手に消えるとも云っていたっけ。魔法って訳わからん。




