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ゆるゆると、意識が戻ってくる。声がする。誰だろう。
息を吸いながら上体を起こした。「マオ」
くらくらするのがすぐにおさまって、俺は自分の手を見る。それには、鋭い爪をした手が重なっている。
ゆっくりと顔を上げた。
「ほーじくん」
「マオ」
ほーじくんはそう云って、緩慢な仕種で俺を抱きしめた。
ほーじくんの体温は高い。穀物みたいな香りがする。ふわふわした羽毛が、手に触れる。濁った白の羽が俺の体を包む。
ほーじくんだ。
本当にほーじくんだ。
どうしてそんなことをしたのかわからない。俺は泣きながら、ほーじくんに口付けていた。
気分が悪い。泣くのなんて、きらいだ。
俺はまだすすり泣き、手巾で洟をかんだ。ほーじくんが心配そうに、俺のせなかを撫でてくれている。「ごめんね、マオ」
「ううん」
「ぼくが、マオにひどいことしたから、だからマオ、哀しい?」
ほーじくんはそう、たどたどしく云い、ひくっとしゃくりあげる。ほーじくんも涙ぐんでいるのだ。ほーじくんにそんな表情をさせたくなくて、俺は泣きやもうとしているのだが、うまくいかない。どうしても涙が出てくる。
もう一度洟をかんで、びしゃびしゃの手巾は収納した。
「違うよ。ほーじくんは悪くないから」
「まお……」
ほーじくんは小さな子どもみたいにか細い声を出して、それなりの腕力で俺を抱き寄せる。エクシザがぐるぐる唸っているのが聴こえた。「エクシザ、静かに」
ぶーっと不満げな音をたて、エクシザは静かになった。
俺とほーじくんの傍では、マルジャンとヤラが所在なげにたたずんで、時折目をかわしている。エクシザはそれよりも離れたところで、不満を全身であらわしながら砂浴びしていた。
荒れ地の表面には基本、なにもない。あるのは延々と、砂だけだ。たまに岩塩が見付かる。地中深くには植物があるみたいで、そういうものを食べる小さな動物や虫を、もう少し大きな動物が食べる。肉そのものではなく、それに宿った魔力を摂取しているグループも居るそうだ。
幾つか、大きな水たまりみたいな水辺があり、その近辺にはサローちゃん垂涎の廃帝花など、荒れ地で育つめずらしい植物や、サボテンなどが育っている。トゥアフェーノが食べるのは主にそれで、だからトゥアフェーノの行動半径は収穫に行くひと達にもわかっている。
そういう諸々は、御山の図書館からかりだした本に書いてあった。要するに、砂まじりの風をしのげる洞窟などはない。




