3546
それが危険な状態だとわかった。「ほーじくん」
砂に足をとられながら歩く。ヤラは俺がほーじくんに近付いていったので、ほっとしたみたいだ。警戒音をたてるのを辞めて、じりじりとほーじくんから離れる。
「ヤラ?」声が震えている。「治療は?」
ヤラは激しく頭を振った。背後から爆発音が聴こえてくる。「塊」が、どうやら咆吼している。
俺はほーじくんの傍らに跪いた。ほーじくんはうつろな目を少しだけ開いて、胸を大きく上下させている。呼吸はしていない。ほーじくんの命が滑り落ちていく。消えてなくなっていく。
なにも考えられない。
マルジャンがとんできて、なにか喚いた。ひたすら、前肢一本で宙を掻いている。収納空間を開ける時の動作だ。
俺はマルジャンに指図されるまま、収納空間を開いた。そして、傷薬をとりだそうとした。けれど、ない。傷薬は、いつの間にかつかいきってしまっていた。妹の怪我を治したあれが、最後だったのか。
マルジャンもそれがわかったみたいだ。ぶるぶると震え、それから、前肢の先を口許へ持っていく。
「魔力薬……?」
マルジャンが頷き、俺は機械的に、魔力薬をほーじくんの口へおしこもうとする。ほーじくんの体はひえていた。そうだ、さっきも、あんなに密着したのに、ほーじくんの体温はかすかだった。
ころんと砂の上へ落ちた魔力薬を拾った。口へ含んで、上体を低くし、ほーじくんへ口付ける。舌をつかって魔力薬をほーじくんの口へおしこんだけれど、ほーじくんがそれをのみこむ気配はない。
手が尽きた。
背後で轟音がして、風が襲ってきた。「塊」が倒れたのだろう。エクシザもタスも、強い。
俺は座りこんで、ほーじくんを見ている。砂に埋まりそうになっているほーじくんを。砂浴びが好きだって、云っていたっけ。
風がゆるくなって、きらきらと、沢山の素が舞い始めた。それには魔もまざっている。魔は還元できない。滅却していない魔物を還元したら、素と魔はまざって空中に飛散する。
そんなのどうでもいいのにどうして考えてるの。
「なにをしてる」
右を見る。いつやってきたのか、タスが立っている。首を動かすのがつらくて、上を向けない。
タスが砂に片膝をつく。襟を掴まれた。タスは俺の体を揺すぶる。「こいつを助けるのだろう。わたし達はその為に戦っていたのではないのか?」
「そうだけど」声が普通に、出た。「ヤラじゃあ、治療できないし、それに、お薬もなくて」
「頭がおかしくなったのか? 何故使役しない?!」




