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タスはゆっくりと立ち上がり、周囲を見る。倒れている時は見えなかったらしい繁みにちょっとの間かたまり、溜め息を吐いてからそちらへ向かう。やっぱりあの、頭の右側だけ完全に覆ってしまうかぶと、不便な気がする。
タスは繁みにはいったかと思うと、出てきた。手には槍がある。マルジャンが不満そうに鳴いた。
槍には、レットゥーフェルの腕が残っていたから、俺が四散で爆発させたやつの持っていたものだろう。タスは感情のわからない顔付きで、槍を握りしめ続けている仲間の腕を、袖や装飾品ごと還元した。
「少し、失礼する」
タスはそう云って、はばたき、すうっと舞い上がる。羽は金属的な色合いで、さっきまでは装飾品かマントみたいに見えていた。そういやあ、飛べるんだった。
タスの云う少しは、本当に「少し」だった。雨脚がもっと弱まって、俺は収納していたお水で頭と手をなんとか洗い、血まみれなのをそれなりにどうにかして、きがえようかと考えているともう、タスが舞い戻ったのだ。
きがえはあとにしよう。俺は収納空間のなかにある、魔力恢復のまずい丸薬をとりだした。収納空間の口をしっかり閉じる。四人全員に魔力を譲渡し、状態異常はもらう。エクシザは一応、俺を主だと思っているのか、羽で細かい雨から庇ってくれている。魔力を奪うお仕置きが堪えたのかもしれない。
俺はタスへ、魔力薬の巾着袋を振る。「服む?」
「いや、わたしにはあまりきかない」
人間用だからだろうか。ああ、人間はまずいから食べないって云うエクシザが食べたがるんだから、人間とはまったく違ういきものなんだな。
「上へ戻らないのか」
「ああー、多分俺ひとりじゃ無理だし、君らに手伝ってもらうのもね。天候がこの感じなら、誰かがさがしに来てくれるよ」
苦笑いで答えた。もっと本音だと、疲れていてあまり動きたくない。実際、俺はここの地理にくらいし、上まで戻る道は知らない。うろうろして体力を消耗するより、ここで待つのが上策だろう。
タスは頷く。手にはもう一本、槍が増え、外套のようなものも持っていた。形見分け、というところだろうか。
「お弔いは……」
「すんだ。兄弟達は世界へ還った」
「そっか。タス、それじゃあ、質問なんだけど」
タスが頷くのを見ながら丸薬を口に含む。強烈な耳鳴りと頭痛がした。ぱちんとどこかで風船が割れるみたいな音がする。
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