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レットゥーフェルは、目だけでぎょろりとこちらを見る。やっぱりこわい。どうしてこう、俺のまわりには可愛い魔物が来てくれないんだろう。ニーバグとかティツィジアーとかアーニズとか、可愛いのいっぱい居るじゃん。
レットゥーフェルは、かすかに動く左腕を、地面に置いたままでゆらゆらさせた。多分、不思議そうにしている。
あ、梅の木だ。
レットゥーフェルには、多分かぶとが邪魔で見えないんだろうが、弱々しい梅の若木があった。あれ、いいな。まだ若いし、もらっちゃおうかな。
「マルジャン、ヤラ」
肩越しに呼んだ。ふたりはぴょいっとやってくる。俺は梅の若木を示す。「あれ、傷付けないように掘り出せないかな」
チャタラは木の根を食べるのだ。上手に掘る方法は、知っているかもしれない。
そう思って訊いたら、ふたりは頷いて、そちらへとんでいった。さっそくやってくれるようだ。ありがたい。
「使役するのか。弱い者を」
あ、忘れてた。
レットゥーフェルへ目を戻した。顔がこわいが、感情はなんとなくわかる。戸惑いとか困惑だ。
「ええっと、苦戦したし、弱くはないと思うよ」
「だが負けた。敗者だ」
歯医者?
あ、敗者か。ああもう、言語:異世界が優秀すぎて、くだらん聴き間違いしてる。このレットゥーフェルに罪はない。俺があほなのだ。
笑いそうなのをこらえる。「勝負は時の運ってやつじゃないの。それと、別に強いから使役したいってことでもなくて、安全に理性的に話したいからさ」
「安全に」
「だって、使役したら体力も魔力も奪えるから、もしなにかされそうになったら殺しちゃえるし。偸利よりも、きくよ」
酷いいいぐさだと思うが、レットゥーフェルは納得したみたいだ。戸惑いらしいものがうすれる。
「そうか。わたしになにを訊きたい」
「封印されたのか、封印されたのならどんな祇畏士にされたのか」
「それを訊く為に、使役を?」
「マルジャン達は、いい子なんだけど、人間みたいには喋れないし、エクシザもそうだから」喋れる魔物は貴重なのだ。「それに俺って、話がすぐに脱線するし、訊かないとって思ってることでも忘れるし、それでよく妹に叱られるんだよね」
云ってて自己嫌悪に陥った。そうだよ、いっつもそう。肝心なところでぬけてるんだよな、俺。
ヤラがぴょんと跳ねた。うまく若木を掘りおこしたらしい。俺は声を出しながら立ち上がり、そちらへ行った。ふたりに礼を云い、若木を収納する。ほんとに、器用に、綺麗に掘りおこしていた。
「魔王」
レットゥーフェルが、少しだけ声を高めた。俺はずぼんで手を拭い、立ち上がって、そちらへ戻る。「なに?」
「お前の云うことはわかった。使役してくれ」




