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俺は頭領(仮)へ突進した。横から組み付く。マルジャンが槍からぬけた。マルジャンの怪我を奪う。とっさのことだ。腹部に激痛が走り、口から大量に血を吐いた。俺の血、まず!! 暴飲暴食してるからかな、尋常じゃなくおいしくないんだけど。
マルジャンが体勢を立て直し、ヤラと一緒に頭領(仮)へぶちあたった。怪我は完全に治っているみたいで、動きによどみはない。よかった。バランスを崩した頭領(仮)の手から俺は槍を奪う。「ほうかい」柄の中程でぶち折ってやった。やったね。
頭領(仮)が咆吼した。耳がびりびりする。頭領(仮)とソシアルダンスでもしているみたいに俺はぐるぐるとまわっている。腕の組みかた的に俺が男役だ。取っ組み合いとはこのことである。あほくさ。お互いに偸利やら禍殃やら叫喚やらをつかい、視野はぐちゃぐちゃでぎらぎらでぐにゃぐにゃだ。マルジャンとヤラは大丈夫だろうか?
「お兄ちゃん危ない!」
妹の声がして、顔が見えた。血の気を失って、妹は目をいっぱいに開き、俺を見ている。それがはっきり見える。状態異常無効が叫喚に勝った。ああ、あの子は美人だなあ。
白石くんが妹の両腕を掴んで、おさえてくれていた。妹を停めてくれてありがとう白石くん。でも、その距離感は近すぎるね。もうちょっと気を遣ってくれないかな。
「大丈夫や! お前はじっとしちょけ!」
そう云った次の瞬間、俺は足を踏み外して窓から落ちた。
高いところはきらいだし落下するのもきらいだし、最悪のタイミングで近場に雷が走った。それ以降の記憶がない。
はっと目を覚ますと、仰向けで草地に転がっていた。起き上がろうとするが、体中が痛い。何ヶ所か骨折しているのは確実だし、頭も打っているようだ。後頭部がずきずきする。
これはおじさんにあとで土下座でもしないとな、と思いながら、周囲に目をやった。さいわいなことに、雨に濡れてきらきらした植物が繁茂している。ごめんね。
心のなかで謝りながら、偸利をつかった。じわじわと痛さと痒さがあって、右手の指がどうやら骨折から復活したらしい。ほんとにもういや。帰りたい。ミューくんに治療してもらいたい。
目につく植物から生命力を奪うと、だいぶ体が動くようになった。上体を起こそうとすると、腰にとんでもない痛みが発生する。背骨か骨盤をやったらしい。ふざけんなよ。
舌を打って、かすむ目にもしっかり見えた松の古木を犠牲にした。本当にごめんなさい。でも、ここから動けないから、見えるものから奪うしかないんだ。




