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犬の鳴き声みたいなのがして、ぎゃっと二回叫びがあがった。
俺は左手で顔を拭う。息を整える。立ち上がる。
頭領(仮)が唸るように云った。「約束を違えたな」
「俺はずるいからね」
エクシザが血に濡れたくちばしで、レットゥーフェルを外へ放り投げた。もう、床に立っているのは二頭だけだ。頭領(仮)は俺に正対し、もう一体はエクシザに槍を向けてかまえている。エクシザは高く咆吼し、風を起こして舞い上がる。
ああ、雨、やんだみたいだ。
がらすがあったところから光がかすかに差していた。灰色のくもが割れはじめている。台風は進路をかえたのだろう。
それとも、もしかしたら、レットゥーフェル達の魔法だったのかもしれないな。
エクシザがレットゥーフェルへ蹴りかかった。レットゥーフェルは槍でエクシザの腿をぶすりと刺したが、エクシザはそんなのはものともしない。無事なほうの肢でレットゥーフェルの頭を掴む。かぶとを変形させながら掴みあげ、暴れるのを持ったまま外へ飛び出す。
もう打ち止めのようだ。援軍は来ない。「これで一対一になったよ」
「ふざけるな」
怒られてしまった。理不尽。
俺は鼻で笑う。
「最初に大群でやってきたのはそっちだろ」
「一対一の約束を」
「知るか」
強めに云うと、頭領(仮)は黙った。俺はそれを睨む。顔面血まみれだし、服も血まみれだ。八割は俺の血だと思う。お風呂にはいりたい。せめてきがえたい。もういやだ。
「お前らはなあ、俺の妹をおどかしたんだよ」
口にはいった血を吐く。腹がたつ。血合いや血いりの腸詰めは好きだし、牛の血もおいしかったけど、人間の血はまずい。多分レットゥーフェルの血もおいしくないと思う。
頭領(仮)を睨んだ。
「妹に危害を加えようとした連中とまともに約束するか。手加減しないし遠慮なく殺すよ。当たり前だろ」
弟だろうと兄だろうと、救える見込みなしと判断したら即座に還元しているやつには、それはまったく響かない言葉だったようだ。不満そうな視線を向けられていた。俺はにっこりする。
「畜生の哀しさだな。人間みたいな情はわからないんだね、その頭じゃ」
やっぱり脳みそ少ないんだろうな。また、この手にのった。
頭領(仮)が切りかかってきて、俺はバックステップで避けた。槍の穂が短くなっているので、頭領(仮)も感覚がつかめないらしい。
突然、頭領(仮)がぐりんと向きをかえた。「マルジャンちゃん!」妹の声がする。
マルジャンが戻ってきていたようだ。頭領(仮)は、とびかかっていったマルジャンを、槍で刺した。
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