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「違うよ」にこっと笑ってみせる。くそ、鼻が痛い。「単純に俺が強いんだよ。まだわからないなんて、弱いだけじゃなくて頭も悪いね」
頭領(仮)は、自分達が弱いと罵られるよりも、頭が悪いと云われるほうがいやみたいだ。
頭領(仮)の目がぐるっと動き、手に持った槍がこちらへすばやくふりおろされた。俺はまた、反射的に右腕を犠牲にする。今度は痛みはすぐには消えない。頭領(仮)が叫喚をつかったのが原因だと思う。叫喚は、精神状態に悪影響を及ぼす。神経伝達物質の状態にも影響するのじゃないかな。多分ね。
槍で二回、叩かれ、ずたずたになった腕をおろした。こんなことはもう二度とやりたくない。こんな痛いことは。
「かおう。とうり」
かがやきながらゆがんでいく視野のなかでレットゥーフェルが倒れる。あと何頭だ?
叫喚、という小さな声がする。くそ、くそ、くそ。状態異常ってこんなにつらいんだな。そりゃあ、暴れる。
悪いことしたとは思わないけどな。
視野がかがやきを失う。もとの色に戻る。レットゥーフェルはあと四頭? 三頭?
俺はにっこりした。「禍殃……昏冥」
ぎゃっと苦しそうな声がした。二頭、膝をつく。俺は笑いながらそれを見て、偸利をつかった。昏冥で持っていかれた魔力が補われた。マルジャン達に魔力を与え、状態異常を奪う。
頭領(仮)が槍でかかってくる。叫喚をつかわれた。視野が極彩色になり、きらきらと輝いて、ぐんにゃりゆがむ。
右腕は捨てた。もういい。どうにかなるだろう。偸利をつかえばいいんだ。「ほうかい!」頭領(仮)の槍らしきものが折れた。多分。途中を崩潰させたのだ。多分頭領(仮)の槍だと思うが、視野がぎらぎらしていてわからない。金属だというのだけは確実だ。だから、間違って人間を殺したりはしていないだろう。
偸利という声が聴こえた。こいつ、偸利、持ってるのか。畜生め。
片膝をつく。つらい。息が苦しい。魔力がどうなってるのかわからない。こいつらはとにかく、どうにかしないといけない。みんなしぬ。それはだめだ。たすけなくちゃ。おれにはそれができるんだ。ならやる。
「魔力が少ないのだな。憐れなことだ。弱い魔王よ」
余裕綽々の声がした。俺は顔を上げてそれを見る。レットゥーフェルは勝ち誇っている。完全に勝利したと確信している。
俺はにっと笑った。レットゥーフェルが穂が半分になった槍をふりあげた。こいつはたしかに、魔力の上限が高いんだろう。だからだめなんだ。
俺には種族の誇りなんてものはない。
「エクシザ、暴れろ」




