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悲鳴とどよめきが聴こえてくる。「なに?!」
俺は立ち上がって、膝からブランケットを落としてしまった。地震……か? まるで、なにかが近場に落ちたような揺れだった。
うずくまって頭を庇っていたスナガミさんが、ぱっと顔を上げる。が、体はまるめたままだ。
「今の、なんですかね? じ、地震かな」
「さあ……」
としか云いようがない。スナガミさんは、いつもと違ってか細い声だ。「ぼ、ぼくは、じしんはだめなんです。こ、こわいんです」
スナガミ夫人がスナガミさんの傍にやってきた。隣にしゃがみこんで、夫のせなかを撫でてあげている。走りまわって遊んでいた子ども達も、ぱーっとやってきて、親達の服やなにかを掴む。不安げに俺を見てきた。俺は、微笑もうとするが、うまくいかない。子ども達は目をきょろきょろさせ、周囲を見ている。
フロントの男性が声を張り上げた。「地震ではありません! 津波の心配もございません!」
手許を見ている。速報がはいるようになっているのだろう。地震ではないのなら、とりあえずは安心だ。高いところだから、津波の心配はそもそもないだろうけれど、それを明言されるとやっぱりほっとする。
妹が爪先だって、カウンタに寝るようにしてそれをのぞきこみ、こちらへ走ってきた。あおざめている。
「地震やないって。なんかとんできて、ぶつかったんかもしれんな」
それが順当だろう。地面が揺れたように感じたが、そうではなくて建物が揺れたのだ。台風で飛ばされたものが家にぶつかった、という話をきいたことがある。大きな音と揺れに、地震かと思ったらしい。
ふと不安になって訊く。
「大丈夫なんか、ここ。ぶつかったとこから、雨漏りしたりとか?」
「大丈夫やと思う。核シェルター並みやって、おじさんの自慢やから」妹は窓、玄関、レストラン、と、視線を動かす。「それは冗談としても、ほんとに強度は高いよ、この建物。おじさん昔、旅先で火事に遭ってから、ホテルとか旅館の耐久度とか防火とかに、異常に煩いから」
絹を裂くような叫びがあがった。
俺と妹は揃ってそちらを向く。ここはおじさんの旅館で、親戚である俺達は従業員ではなくてもそれなりに責任はある、と思っている。だから、なにかあったら対処しないといけない。場合によっては従業員よりもはやく。
悲鳴が次々に上がった。妹が息をのむ。養生テープをべたべたと張られた、特別製の強化がらす窓の向こう、滝のように流れる水でよく見えないその空間に、なにかが居る。窓のすぐ外に、なにかが。




