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子ども達が走りまわって遊んでいる。その光景は、台風や謎の生物の恐怖を忘れさせてくれるもののようで、大人達は微笑んでそれを見ていた。
後ろからぶつかられた。「おう。大丈夫?」
振り向いて訊く。幼稚園児くらいの男の子で、にっこりして頷き、また走りだす。バルくん、元気かなあ。
渓谷を見下ろす窓以外は封鎖されていて、時間の感覚が狂っている。渓谷を見下ろす窓も、流れる水で外はよく見えない。
ががっと、耳障りなノイズが聴こえた。妹の持っているケータイからだ。
「どうした?」
「電波が……」
妹の手許を覗きこむ。ケータイには、ニュース番組が表示されているのだが、画面がかくかくしていた。
「ラグいな」
「こんなノイズはいるの、はじめてなんやけど」
妹はしかめ面で、ケータイを縦にしたり横にしたりする。俺はそれを見ながら云う。「電波塔、倒れたんじゃないの」
「それやったら映らんって」
「あ、そっか」
「アクセスが集中してるんかも。別の配信見てみるわ」
妹は画面を叩いてケータイを操作するが、それも相当時間がかかっている。電波環境が急速に悪くなっているみたいだ。風の影響だろう。
椅子を一脚借りて、座り、目を瞑った。ひとり一枚支給されるというブランケットももらっている。でも、たたんだまま膝に抱えていた。
眠れるかもしれないし、眠れなかったら眠れなかったで、目を閉じるだけでも脳は休まる、らしい。台風でなにもできないし、状態異常を奪うのと魔力の譲渡で疲れている。少し休みたい。
状態異常は、雨の所為か、三頭とも少し程度が悪くなっているようだった。つらかろう。
魔力は徐々に徐々に送っているが、俺が幾ら魔力:優でも、三頭にそうしているのはきつい。隣近所のひとに不審に思われないよう、胸ポケットから出したふりで、まずい丸薬の巾着袋を出し、ふた粒口に含んだ。
「マオさんも、気付けのお薬ですか」
凄まじい匂いがするのか、空席をふたつはさんで右に居るスナガミさんが、大きな声で訪ねてくる。その隣のスナガミ夫人が、苦笑いになっていた。こちらは低声だ。「わたしも、気分が悪くなってしまって、服んだんです。牛黄と……」
漢方薬かなにかと勘違いされたみたいだ。それで俺に不都合はないので、はにかんだみたいに微笑んで黙っておく。
巾着袋を懐へ戻し、スナガミさんがやってきて渡してくれた漢方薬の包みをおし戴いた。「これはききますよ。動悸や不安がすぐになくなります」
「ありがとうございます」
ききそうですねと云おうとした瞬間、地面が揺れた。




