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これで、あっちでは結構なお金持ちだな、俺。
苦笑いになってしまった。小さなぼたんは山程持っているし、お塩もある。銀も沢山、延べ棒もあり、だ。これなら、今この瞬間あちらへ戻されても、なんの問題もない。
ちょっと淋しいかも、ってくらい。
「なあ」
「うん」
「これ、食べよう」
収納空間から、チョコレートを一枚とりだした。スーパーで見かける板チョコと違って、ブロックみたいに分厚い。妹が微笑む。
俺はそのチョコレートをぱきんと割って、大きいほうを妹へ渡した。妹はありがとうとにっこりして、早速チョコをかじる。俺もそうした。
甘くて、かたくて、いい香りだ。脂が体温で簡単に溶ける。
「おいしいな」
「なあ。さすが、高級品やわ」
「おじさんに、どこのメーカーか訊いとけよ。また食べたくなったら、買えるだろ」
俺がそう云うと、妹はちょっとだけ表情を曇らせた。「そうやな。いつまでも、お兄ちゃんにもらう訳に、いかんもんな」
そうだなと云いたかったけれど、言葉があまり上手に出てこない。
俺達はもう二枚、チョコを食べて、ロビーへ戻った。お互いなにも喋らない。妹は俺の手を握りしめ、俯いて歩いている。俺は俯かないようにした。
ロビーはだいぶ、静かに、穏やかな雰囲気になっていた。正面玄関の封鎖が終了したのが大きな安心材料だと思う。シャッターが下ろされているのだ。それも、二重。
それに、あきスペースにパイプ椅子が並べられていた。そこに座っておしゃべりしているひとが沢山居る。ケータイで台風の情況をたしかめているひとも多々、居た。ブランケットにくるまって、器用に寝ているひとも居る。
妹がフロントへ走っていって、なにか話してから戻ってくる。「ここが避難場所に指定されてるって説明したら、みんなだいぶん落ちついたんやって」
「ああ、そうか」
そういやあ、おじさんの旅館はほとんどが避難場所になってたな。食糧は備蓄してあるし、発電機もあるし、建物は頑丈だし、お医者さんも常駐しているのだ。避難場所にならないほうがおかしい。
シャッターを下ろしてから、玄関近辺の電気は切っていて、だからなにかの拍子で開くということもないらしい。安心だ。
それから、台風は直撃する気満々みたいで、ゆるくカーヴしながらこちらへ移動しているそうだ。やめて戴きたい。
八月の台風かあ。それなりに、やばいやつだぞ。建物は大丈夫だろうけれど、お庭が大変なことになりそう。マルジャン達、大丈夫なのかな。魔法でなんとかなる部分は大きいけど、だからって台風に対抗できるかと云われたら、うーん、どうだろう……。
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