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お客さん達の食事があらかた済んだみたいなので、俺と妹もようやくレストランに這入れた。隅っこの席にシカタ夫妻が居たが、こちらに気付いていないみたいで、だからあえて主張することはしない。
雰囲気はまた、悪くなっている。崖崩れだけじゃなく、台風まで来ちゃあな。踏んだり蹴ったり、泣き面に蜂である。
妹は朝食のセットを頼み、食べた。いつもよりもぐっと少ないが、我慢するつもりなのだろう。俺はお白湯だけもらった。収納空間に食糧が沢山あるから、あとで隠れて食べるつもり。それがこちらの世界のものだったら、こだわりなく妹にも分け与えたのだが、生憎ほとんどがあちらの世界のものである。心配なので、量を与えられない。
この雨じゃあ、食糧なんて運んでこられないだろうし、俺は旅館の食糧をこれ以上消費しないようにする。
妹が食事を終えるとロビーへ戻り、俺は歯を磨くと云ってお手洗いへ移動した。あいていた個室に立てこもる。蓋をした便器に腰掛けて、サンドウィッチやハンバーガー、お握りなどをおなかに詰め込んだ。
「大丈夫なのかなあ」
外から声がする。俺は咀嚼音が響きませんようにと祈りながら、なんとなくそれを聴いていた。
「大丈夫だろ? 支配人さんが云ってたじゃん」
あ、ケンゴくんだ。
もう片方の声は聴いたことがないが、お客さんだろう。ナラさん達とスナガミさん一家のように、ケンゴくんもここでお友達をつくったらしい。
「急に大きくなったんだろ、台風」
「らしいね」
「地球温暖化の所為かなあ」
「じゃないの」
「大人ってみんな無責任なんだよ、後は野となれ山となれでさ、俺達にいい環境を残そうって云う気概がない」
「資源は宇宙にいっぱいあるじゃん。宇宙に進出すればいいんだよ」
「なあ、木星のガスを原料にして発電するのって、現実的だと思うか?」
「いいんじゃないの」
「昔、アシモフの小説でさ」
「ああ知ってる。あれだろ」
「そうそう、あれ面白いよな」
なんだか壮大な話をしている。青少年、面白いな。
ふたりは用を足し、洗面台のほうへと移動する。声は小さくなったが、聴きとれた。
「でも、台風だもんな。風凄いし、けっこう、迫力かも」
「そうだろ? 屋根が飛ばされたりしたら、やだよ」
「それはないって。ここの建築工法はさあ……」
ふたりは手を洗い、出ていった。ケンゴくん、建築系の勉強してるのかな。ここの建物のこと、昨日も喋ってた気がする。
とりあえず、屋根の心配もないなら、大丈夫だろう。台風は、とんでくるものもだし、自分の周囲からなにかがとんでいかないかっていうのもこわいのだ。




