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俺は口をぽかんと開けて、動き出そうとした姿勢のまま停まる。え?
女の子達は元気そうだった。それぞればっちりメイクをして、しっかり髪を整えて、おしゃれしている。
「仲好しなんですね」
「は?」
「あ、わたし達ネットで動画配信してるんですけど、素敵な旅行エピソード、インタビューさせてもらってもいいですか? 結構フォロワー多くて、いろんなひとに見てもらえると思います」
途端に、男性は肩を丸め、もごもごと断ってロビーの隅へ逃げていった。女性が女の子達にぺこぺこしながらそれを追いかける。
まあ……いやたしかに、旅行苦手でも奥さんが心配でついてきてるみたいだから、悪い旦那さんではないんだろう。喧嘩もおさまって、ふたりはしょぼんと肩を落とした状態ながらも、ひそひそ喋っているし、大丈夫かな。
それよりも、女の子達だ。四人揃って、フロント傍で立っている。ギプスなどは見えない。怪我、なかったんだ。よかった。
そのうちのひとりと目が合った。会釈され、会釈を返す。あとの三人も会釈をくれた。
支配人がやってきて、女の子達がぱっと群がる。支配人は優しい表情で、四人に話しかけた。「皆さん、疲れているでしょう。座っていたほうが宜しいのでは?」
「大丈夫です」
「あたし達、全然元気ですよ」
「ね」
「支配人さんが庇ってくれたもんね」
支配人は首をすくめる。
「追い払ってくれたのは真緒さまですから」
それからしばらく、五人はもしょもしょと会話している。どうやら、昨夜のうちに、四人はここに戻っていたらしい。その段階では台風のことは心配がない情況だった、ということだろうか。随分急速に発達したものだ。
「あの」
妹にクッキーを与えていると、女の子のうちのひとりがとことことやってきた。妹がクッキーを飲み込む。「はい」
「あ、えっと、昨日はどうも……ありがとうございましたっ」
頭を下げられた。俺はぽかんとしてそれを見ている。妹も似たような表情になっていた。
女の子は頭を上げて、小さい会釈を数回する。
「あの、助けに来てくれて……ここ、みんないいひとばっかりで、だからわたし達、ちゃんとPRしたいんです。それで、お医者さんも大丈夫だって云ってたし、戻ってきて」
ああ、そういう経緯だったんだ。そっか。
じゃあ、俺がやったことは、少しはこの旅館の為になったんだな。なら、いいかあ。
俺と妹は顔を見合わせ、どちらともなく笑う。あとの三人がおずおずとやってきて、やはり、お礼を云ってくれた。いい子達だ。




