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しかし、観光客用のお宿である。他地域からのお客さんも多い。この辺りで台風がさほどめずらしいものではなく、対策さえとれば直撃しても被害はそう出ないということを、理解できていないひとは居る。
「どう責任をとるんだって訊いてるんです」
俺と妹が揃って手洗いに移動し、戻ると、フロントのふたりにくってかかる男性が居た。五十手前くらいだろうか。不安そうな同年配の女性が、男性の腕を両手で掴んで、フロントからひきはなそうとしている。「あなた、ねえ、迷惑ですから」
「迷惑なのはこっちだ!」
男性が女性を怒鳴った。目が血走っている。
「こんなふうにあしどめされて、おまけに台風だって! 食糧がなくなったらどうする? 水道がどうにかなったら? 送電がストップしたら?」
「発電機があるって支配人さんがおっしゃってたじゃない。お水も井戸水だし、それがどうにかなったら温泉があるって」
女性が正論で返した。だが男性は、台風が直撃するかもしれないという恐怖で、我を忘れている。
「もとはといえば、お前がこんなところに来たいなんて云ったのが原因だ!」
女性が首をすくめた。それは本当のことなのだろうけれど、云っちゃだめだ。そうだとしても、あの女性は崖崩れが起こる可能性なんて知らないし、台風だって呼び寄せている訳じゃない。おじさんのいうように、責任があるとしたら道の異変に気付かなかった旅館である。あの道を管轄してる国とか、体当たりしたエクシザもな。
だから、お客さんにはまるっきり罪はないのだ。それなのに、男性はつれの女性を責めた。
「お前がこんな、へんぴな……俺は旅行なんて嫌いなんだ! 移動に時間がかかるばっかりで、車でも船でも酔うし、土地のものってのは大体うまくないし、こっちの食いものは味が濃くて甘くてまずい! それをお前が、景色がいいだの空気がおいしいだの云って、こんなところへ来たがるから」
「いやなら来なかったらよかったじゃありませんか!」
女性がとうとう云い返した。男性はぐっと詰まる。「わたし、ひとりでだって来られました」
「お前はひとりじゃなんにもできんくせに」
「できます! あなたみたいに、トイレットペーパーが自然にその辺りからわいて出てくると思ってるような人間じゃないわ」
ぐっさりきたみたいで、男性は口を半開きにした。女性がなおもいいつのろうとしたので、やばいと思って間にはいろうとする。
が、その前に、別のひとがふたりの間にはいった。「素敵ー。旅行きらいなのに、奥さんの為に頑張ってるんだって」
のんきに割ってはいったのは、昨日、ホートリットに襲われた女の子達だ。




