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八月九日は、朝からばけつをひっくり返したような雨だった。妹によると、昨日までの雨はそうではないのだが、今日からは台風らしい。
ということで、表の坂にしても裏道にしても、整備もなにもあったものではない。ついでに、強風でロビーの窓もさすがに不安があるのか、養生されていた。
それは、各部屋や、廊下の窓もだ。俺と妹が朝食前に、それぞれケータイとPCでUMAについて調べながらお握りを食べていると、従業員がやってきて、窓の内側からテープを貼っていったのだ。ついでに、建物自体の強度は問題ないが、食糧などの面で心配があるということで、ロビーへ行くように指示された。避難である。
俺達は荷物をまとめて一番安全な(と、従業員が教えてくれた)洗面所へ置き、必要なものだけ持って、従業員に渡されたかっぱを着てお部屋を出た。従業員が案内してくれるそうで、常に俺達の傍についていたので、目を盗んで収納するということもできなかった。
妹はきがえなどを小さな鞄にまとめていた。俺はほぼ手ぶらだ。ケータイと、従業員の手前、たまたま洗面所に置いてあった服と歯磨きセットをビニール袋にまとめ、持っているだけ。
ロビーはひとでごった返している。お客さんの数はそんなに居ない筈だが、そもそもロビーはそこまでひろくない。ソファや椅子の数も限られているので、そこには高齢らしいお客さんや、小さな子どもを抱えたお父さんお母さん、眠たそうな子ども達が座っている。若い大人達、ティーンエイジャーは、立っていた。
子ども達は眠そうだったり、うとうとしていたりする。子どもってこういうとき、図太い。
反対に、大人や、台風が来るのがどういうことかわかっている十代後半の子達は、それなりに不安な表情で、雰囲気もよくない。支配人が、ここの建物すべてに、強度の高いがらすがつかわれていると説明していた。台風が来る地域なので、がらすは凄く気を遣う。
「こうしてあるのは、もしもに備えてでございます。ご心配なく」
支配人がそう結ぶと、幾らかは不安が解消されたのか、ほっとしたような溜め息が聴こえてきた。同時に、レストランからお茶とお菓子が運び出される。レストランのテーブルは、ほとんどすべて埋まっているらしい。お部屋にとじこもっていたひと達も、だからここにひきずり出されているのだ。
みんな、小さな鞄だとか、旅行鞄だとかを持っていた。電気についても、発電機と灯油があるので心配要らないらしいが、もしものことが起こるのが世の常だ。




