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「チャタラに?」
ぐいっと袖をひっぱられた。妹はこわい顔だ。「声が大きい」
「……すまん」
妹は頷いて、俺の袖をぱっとはなす。俺は小首を傾げる。チャタラに、ねえ……。
「だって、お兄ちゃん」妹は目を逸らす。口を尖らす。「不安そうやもん。気になるんやったら、だめもとでも訊いてみたらいいやん? もしかしたら、知ってるかもしれんし」
訊いてみてわかるだろうか、と思ったけれど、妹のその言葉で考えがかわった。この子は、実際にニーバグが封印されるかどうかを気にしてるんじゃない。俺がうじうじしているのがいやなんだ。
心配してくれてる。
ありがとうなあと云うと妹はにこっとした。ロビーを通りぬけ、レストランでサンドウィッチをつくって包んでもらう。チャタラ用に、さつま芋をふかしてもらった。チャタラ用だけど俺と妹も食べるので、ちょっと多めに。
サンドウィッチの包みがたっぷりはいった紙袋は妹が、ラップがかかったさつま芋の大皿は俺が持って、レストランを出、お部屋へ向かった。ロビーのお客さんのなかには、シカタ夫妻、ナラさん達、スナガミさん一家も見える。俺達は片手を振って小さく挨拶し、あちらもそうしてくれた。
もう遅い時間だけど、誰もお部屋へ戻ろうとはしていない。不安が伝わってくる。
フロントで傘をかりてから、ロビーをぬけた。誰も居ない廊下で、手にしたものを収納してしまう。妹は小さく溜め息を吐く。「なんだよ?」
「便利やねえ」
それには頷くしかない。
お部屋へ戻ると、灯をつけ、ローテーブルにサンドウィッチとふかし芋を置いた。「お前は」
「わたしも居るから」
妹はくいっと顎を上げる。「チャタラに訊いたら? って云うたのわたしやし、お兄ちゃんってうっかりしてて質問したほうがいいこともスルーしそうやし、大体ご飯に夢中になって本来の目的を忘れそうやもん」
ぐさぐさと数本のナイフを突き立てられた気分である。身に覚えのあることばっかりだ。あ、兄をいじめるのはよくないんだぞ。
妹はローテーブルの傍にちょこん座り、小首を傾げながら、室内のあいたスペースを示した。俺はちょっと、妹を睨んでいる。
「お兄ちゃん」
「わかったよ」
収納空間から、布を数枚出して、ひろげた。その上に、査定に出さなかったじゅうたんを重ねる。こうしておけば、マルジャンの体が少々汚れていても、畳は無事だ。
ヤラを呼び出すつもりはない。直接的な被害がなかったといえ、妹は暴れるヤラを見ている。ほぼ同じ見た目だが、ヤラよりもマルジャンのほうが、妹も安心できるだろう。




