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「お兄ちゃん?」
「あ、ああ」
声が咽にひっかかる。妹は不審そうに俺を見る。小首を傾げ、ぱさりと顔にかかった髪を、耳にかける。手付きが不安げだ。
「なん? ……なんか、心当たり、あるん?」
「ああー、あるちいわああるけど、あー」
「なに、はっきりしてよ」
俺は肩をすくめる。
ニーバグを封印。
ありえないような話だ。どう考えても、つじつまが合わない。
ニーバグは、智慧者かなんかに呪われて魔物になった種族だ。それは神話で簡単に語られる。ニーバグはいたずら好きで、悪ふざけばかりしていた所為で神さまの怒りに触れた、だから魔につかれた、と。悪ふざけやいたずらがいきすぎるとよくないという教訓話でもあるのだろう。まあ、あっちのせかいのことだから、大枠は事実って云うのはそうだろうけどさ。神さまがリアルに存在しているからな。
そんな経緯で魔につかれているといえ、ニーバグの性質は穏やかかつ平和的だ。人間と踊ったり騒いだりするのが好きで、お菓子が好物、お菓子でごまかすことができる。あとは、光や音で誘導されるという素直というか御しやすいというか、な性格をしている。
で、人間に対して敵対的なことはほぼない、らしい。だって、御山の授業(駆使魔法を勉強する時)に、業者に頼んでニーバグつれてきてもらってたもん。御山に普通に這入らせるくらいの危なさ、ということだ。正直ニーバグよりも、猫のほうがよっぽどおそれられていた。
いやまじで。冗談じゃなく、猫が見付かったら奉公人数十人がかりの大捜索が行われる。そもそも、ひょんなところで猫の姿を目撃なんて、大の男でも悲鳴をあげて魔法を濫発するレベルのおそろしい出来事なのだ。
ほんとに、それくらい、「魔につかれたらどうなるか」というのは大きなことだ。猫は魔につかれると、巨大化して凶暴になり、魔法をばんばんつかい、かみついてきたりひっかいてきたりやりたい放題する。そのこわさは、錬金術士殺しを採りに行った時に、身をもって知った。バルドさんが死にそうになったり、俺も気絶したり、散々だったんだから。
ニーバグはそんなふうに、単なる猫、それに多分犬なんかよりもずっと安全で、穏やかな生きものだと認識されている。
まちなかにも普通に居るから、俺が冒瀆魔法をつかって、それを祇畏士に感知されたらしい時も、ニーバグが近くに居て、ああニーバグの魔を感じとったのね、なあんだお騒がせしました、ですんでいた。
そのニーバグを、封印するか? 普通。
感想ありがとうございます。はげみになります。




