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けれど、支配人は怒りをおさめる様子はない。
「だとしても、です。ここでなにかが起こったからと、いちいち疑われていたら、きりがございません。猪や鹿、猿が庭に這入りこむことも、たまにありますでしょう。それも真緒さまやオーナーの差し金なのですか?」
俺とおじさんは目を合わせ、苦笑した。まわりがここまで怒ってくれると、俺達は反対に冷静になれる。ありがたいことだ。
ここまで親身になってくれるのも、凄くありがたい。
支配人とおじさんは、まだ話し合うことがあるらしい。俺と妹はカップをからにしてから、支配人室を出た。「寝る?」
「そうするか」
並んで歩いた。
「なあ、あん……UMAの情報、あたらしいの、あるか?」
「待って」
妹はケータイを操作し、画面にあらわれた文面をぼそぼそと読み上げる。
「フランスのやつ……悪魔の続報、やって。なっちゃんから。えっと、三歳の子どもをつれた、二十代の母親が、散歩中に遭遇した。彼女は悪魔に一撃を食らわせたと証言……悪魔は以前目撃されたものよりもずっと小さく、豚に似た顔をしており、ささやくような声で喋る……彼女と子どもを堕落させようとしていた……意味がわからん」
「なんやろうな」
「最初に見付かったやつとは違うみたいって。最初のは、犬っぽい顔らしいわ。ショックで寝込んでる目撃者の家までおしかけて、証言を録音したって書いてる。このひと、迷惑なひとやなあ」
それには同意する。人間、自分の好きな事柄や、夢中になっていることに対しては、どうしてもまわりが見えなくなってしまうのだろう。
首をひねった。豚みたいな顔かあ。猪ならあちらの世界にも居たけれど、二足歩行はしない。悪魔だって云ってるから、多分、二足歩行なんだろう。
「二匹目が目撃された森にも行ったって。素人カメラマンとケータイかまえたひとばっかりで、悪魔は居らんかったってよ」
命知らずの人間ばかりだ。
しかし、強いな、フランス女性。魔物を蹴るなり殴るなりして撃退したのか。状態異常で弱まっていたんだろうけれど、即座に手が出る辺り、国は関係なく子どもをつれた母は強しというやつなのだろうか。
妹が立ち停まった。口がぽかんと開いている。俺も二歩先で停まった。「どうした?」
「……その悪魔、母子にお菓子をあげようとしたって。近場の店でお菓子が盗まれてるらしいわ。こんな魔物居るん? お兄ちゃん」
お菓子?
お菓子を分け与えようとする。豚みたい。小さめ。
それってもしかして、ニーバグでは。




