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ふたりは口を噤む。俺はにこにこしている。
「それにしても、幸運でした。どうやって追い払ったのかなあ。必死だったんで、あんまり覚えていないんですけどね。まあ、たいしたことはしてませんよ」
「真緒さまは勇敢でらっしゃいました!」
まだおじさんの腕に掴まっていた支配人が、ぱっと近付いてきた。顔を赤くして云う。「わたしひとりではお嬢さんがたをまもることもできなかったでしょう。真緒さまがいらしてくれて、本当に助かりました」
「あ、はい……どうも」
ひょこっと頭を下げる。支配人は満足そうに頷いて、ふたり組へ体を向けた。
「真緒さまは謙遜しておいでですが、本当はとても勇敢なかたなのです。あの時はその、とても迫力がありました」
はあ。あれかなあ、魔物に対しては、俺ってめちゃめちゃ強いから、魔物が怯えるんだよね。エクシザが怯えてたから、俺に迫力があるように思えたのかもしれない。
支配人はぺこぺこして、おじさんの背後に戻っていった。おじさんが支配人の肩を軽く叩いている。支配人は恐縮していた。おじさんふたり、なんか可愛いな。
かたやおにいさんふたりはというと、面喰らった様子だった。きょとんとしていたが、顔を見合わせ、もそもそと言葉を交わす。
それから、ケータイでどこかへ連絡したり、なんらかのやりとりがある。それから、俺はがっつり指紋を採られ、ついでに髪の毛も一本採られた。指紋はヤラの時にも採られた筈だが、あらためて採られた。
ただ、一応それで放免らしい。ふたりは俺達にお礼を云い、おじさんと支配人になにか話してお辞儀し、出て行く。支配人がそれを追いかけた。
おじさんがデスクのひきだしから、菓子折をとりだした。バターの香りが凄まじい。
支配人のへそくりらしいそのお菓子を、おじさんはローテーブルへと運んできた。俺達は遠慮会釈なしに箱を開け、個包装を解いてお菓子をぱくついた。おお、栗あんヴァージョンではないですか。うまーい。
「いいの、おじさん」
「おう。怒らせたら謝る。買うて返す」
端的だ。
支配人はすぐに戻ってきて、俺達がとらのこのお菓子を食べているのを見て大口を開けた。それからおじさんへの猛烈な抗議がはじまる。支配人室内をぐるぐる小走りに逃げるおじさんを、支配人がやはり小走りで追いかけている。「あれは限定品なんですよ!」
「すまんすまん」
「オーナー!」
「買うて返すけん、ゆるしてくれ」
「ですから」
「ふた箱と、通常のもふた箱。どうや?」
おじさんがピースしてそう訊くと、支配人の怒りはおさまったようで、にこにこして頷いている。お菓子の威力。




