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だからあの時は、ひとりでどうにかしようと思っていた。下へおりるみちがどこかわからなかったから、それだけは妹に頼らざるをえなかったけれど、それも本意ではない。
俺はちょっと、苦笑いした。さてどうしようか。
「たしかに、二回とも俺が追い払ってますね。一回目は蹴り飛ばしたら逃げられたんですけど」
冗談っぽく云ってみる。ふたり組はにこりともしない。このひと達、聴取がへただな。もうちょっと感じがよかったら、ぽろっと喋ってしまっていたかもしれない。
小首を傾げる。「それがなにか?」
「……この短い期間に、二回もその……正体不明の動物に会い、それを二回とも追い払ったというのは、不自然だとは思いませんか」
「一回目は自然だとは思いませんね」
切り口上で返す。妹が俺の袖をぎゅっと握っている。俺は妹に掴まれていない腕を、ちょっと振る。
「こういうところじゃなくて、ひとも沢山居るし、自然の少ないところでしたから、最初にいきあったのは。あの猿みたいなやつ、どこから来たんですかね。あの博物館の近くに山なんてないと思うんだけど」
「真緒さん」
そう云って更になにか続けたそうなのを、遮った。
「でも、ここで動物にあうのは、不自然とまでは思いません。おふたりとも裏道を通ってのぼってらっしゃったんですよね?」
俺は裏道を見たことはないのだが、どうやらかなりの悪路らしい。ふたりはちょっと顔をしかめる。「ええ」
「まあ」
「それでわかるでしょ。ここは田舎なんです。ごぞんじないかもしれませんけれど、運悪く交通事故に遭った鹿やきじなんて、よく見ますよ」
実際、鹿の死骸はよく発見される。きじも、たまに。この辺には猪や猿も居るらしいのだが、不思議なことにその二種はあまり事故にあわないらしい。交通事故死が一番多いのは鹿だ。
なんにせよ、それだけいきものは近い。鷹もとびもからすもふくろうもわさわさ飛んでいる。ついでに、姿はついぞ見えないが、小鳥達は毎日楽しそうにさえずっているし、野うさぎや野ねずみ、りすも沢山居るそう。広葉樹林があるから、こっちで絶滅してなかったら熊も居たかもしれない。
話していて、別の地域出身だろうなと思った。おそらく関東のひとである。そっちに野生動物が居ないとは云わないが、この辺の田舎度合いというか、どれくらい動物がうろちょろしているかは絶対にわかってない。あなた達が思っているよりも田舎ですよ、こっちに長く居る訳じゃないから知らないでしょ、という意味の、ごぞんじないかも、だ。




