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しばらく相談みたいなやりとりをしてから、ふたり同時にこちらを向いた。「その時も、真緒さんが、その動物を追い払っていますよね」
ああ、そういうことか。
不審がられているっぽい理由は、わかったかもしれない。確かに怪しいかもな。俺は公的に、二回、謎の生物に遭遇し、二回とも率先して行動し、追い払っている。不審がられるのは仕方ない。
チャタラの時はともかく、今回はあれだけの大きないきものである。写真が撮られたのだから、かなり正確なサイズを警察では割り出しているだろう。
それを、特に運動神経がいい訳でもない、体を鍛えている感じでもない、ぼやーっとぬぼーっとした、単なるオーナーの親戚、という若いにーちゃんが追い払ったのである。違和感しかない。
その点、あっちの世界だとそうでもないんだよな。特殊能力や職業加護で、見た目華奢でも超絶力持ちだったり、ちびっこくても大きな魔法をばんばんつかえたり、魔物に対して確定で効くスキルを持っていたりするから。不名誉職のなかには、魔物を高確率で追い払うことができる職業加護のものもあるらしいから、こういう情況ならそういった職業加護持ちだと誤解してくれるだろう。
こちらの世界ではそういう訳にはいかない。最初の一度だけ、博物館での件だけなら、妹をまもろうとしての必死の行動だったといういいぬけかたがある。チャタラの外見も蹴り心地も、必死だったからあんまり覚えてない、が通じたし。
でも今回は、自ら危険へと、額面通りに走ってつっこんでいったのだ。幾ら俺がオーナーの親戚で、この旅館で事故が起こったらいやだと考えていた、としても、そもそもホートリットを見付けた時にはロビーに居たのだから、その場の従業員に報せたらいいのにという話になってしまう。
それは、あの時はできなかった。ていうか、しようとも思っていない。
それこそ散弾銃でもあるなら別だが、あるのかないのか知らないからな。従業員は、そういう手段があろうとなかろうと、お客さまに危険が迫っていたらきっと助けに行ってしまう。そんな危険を冒させる訳には、いかなかった。
徒手空拳の人間が何人よりあつまろうと、ホートリットにはかなわない。散弾銃どころか、この旅館には武器らしい武器はないだろう。厨房になら、切れ味のいい包丁くらいは置いてあるだろうが。
なら、魔法をつかえて、職業加護のおかげで魔物に対しては与ダメージが大きくなる俺が、ひとりで向かうべきだ。本当にどうしようもないような情況なら、マルジャン達にも協力してもらえるし。




