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スナガミさんは地声が大きいらしく、追加注文する時にウェイターさんに大きな声でカルボナーラをひとつ! と云っていた。ウェイターさんはちょっと驚いていて、スナガミさんの子ども達はくすくす笑いの発作に見舞われる。
食糧がだいぶ減って、それぞれのテーブルにデザートが運ばれ、スナガミさんがサンデーをもうひとつもらえますか! とウェイターさんに注文したあと、話題はホートリットのことへ移った。
「この辺りには、動物園があるんでしょうね?」
ナラさんが薫り高いコーヒーを飲みながら、わずかに俺に体を向けて云う。仕立てのいいジャケットは、上品な深い紺色だ。ナラさん達はこのレストランをとても格式のあるところと捉えているようで、しっかりと正装していた。
スナガミさん達は、お子さんが小さいし、そういうのは無理なのだろう。完全に普段着だ。お子さんふたりがサンデーをシェアして、顔中アイスとクリームだらけにしているのを、スナガミ夫人がくすくすしながらやわらかいガーゼハンカチで拭いてあげている。
ナラさんは思案げにしてから、ゆっくり続ける。
「大きな鳥がうろうろしていると聴きました。危険だとか」
「何年か前に、駝鳥が逃げたよね。たしか、この近くで……」
ナラさんの向かいに座っている、ケンゴくんが、澄んだ高い声で云う。ケンゴくんはナラさん夫妻の親友のお孫さんらしい。
大学生のケンゴくんは、難しい検定にうかったらここにつれてきてもらえるという約束をしていたそうで、丁度玉花荘に行きたいと思っていたナラさん達が引率を買って出たらしい。ケンゴくんのご家族は、旅行にも温泉にも興味がなくて、長時間かけて移動して、寝るだけ寝てかえるようなもの、と、あまり旅行をしたがらないそうだ。まあ、気持ちはわからなくもないかな。
ケンゴくんは、隣の椅子に置いてあったジャケットのポケットから、ケータイをとりだした。ささっと操作する。「ああ、隣の隣の県だ。動物園から駝鳥が八頭逃げ出して、五頭はすぐに戻ってきたんだって。残りの三頭をさがすのに、三週間もかかってるよ」
ふむふむ、ケータイって便利だな。そういう情報、すぐに検索できるんだ。
ナラ夫人が顔をしかめた。「ケンゴちゃん、お食事中にその機械を持ち出すのはおよしなさい」
「はい、ごめんなさいおばさま」
ケンゴくんは素直に謝って、ケータイをもとの位置に戻した。ナラさんがコーヒーのカップを置く。
「この辺りにも、動物園か、ペットショップがあるんでしょうね。管理がなっていないところというのはたまにありますから」




