3477
なんだか凄く見覚えのある光景だった。そう……御山でも、こういうことは数回あった。狂言遭難。還元過多による魔物の襲撃が数回。それに、トゥスミア先生の「事故」。
みんな、神経が昂ぶっている。それをごまかすのには、あたたかい飲みものと睡眠しかない。崖崩れはともかく、俺達がどうあがいても雨はやんでくれない。
勿論、魔王でもなければ、ホートリットをひとりで追い払うことは不可能だ。まあ、魔王であっても、相手が状態異常で勝手に弱ってくれてたからできたことだけどな。
レストランは、ロビーとは正反対に、すいていた。つかわれているテーブルはふたつだけだ。小さな子どもふたりと、親と覚しい男女の四人組、六十代くらいの男女と十代後半くらいの男の子の三人組。
テーブルはあいているのに、ふた組は隣り合うテーブルをつかっていた。知り合いなのかもしれない。食事を楽しみながら、お喋りしている。
俺達もなんとなく、ふた組の近場のテーブルに陣取った。窓辺で、窓がらすの外側を、雨水が滝のように流れているのが見える。マルジャン達、それにエクシザは、大丈夫だろうか。
俺にとってさいわいなことに、稲光はない。ただただ、雨が降っている。
「こんばんは」
隣のテーブルの、六十代くらいの男性から声をかけられた。俺と妹は窓に向けていた顔をそちらへ向けて、にこっとして頭を下げる。「こんばんは」
「雨、凄いですね」
妹が如才なく云う。俺達に話しかけた男性は、にっこりして頷く。隣の、同じくらいの年代の女性もだ。向かいに座っている十代の男の子は、とりの解体に夢中になっている。
ウェイターさんが来て、俺はハンバーグの定食と、トマトヨーグルト、スイカのシャーベットを注文した。妹はとりとキャベツの甘酢あん定食、枝豆豆腐、桃、フローズンヨーグルト。
注文を繰り返して、ウェイターさんが去っていく。待ちかまえていたみたいに、隣のテーブルから声がする。
「観光でいらしたんですか?」
女性のほうだ。俺は微笑みで応じる。「いえ、少し、ゆっくりすごそうかと思って」
息をするように嘘を吐いたが、自然だったのか、怪しまれた様子はない。男性も女性もにこにこして頷いている。
「ああ、いいですね。ここは温泉が素晴らしいからなあ」
「ええ、本当に」
「ご夫婦かしら?」
女性のほうが云い、俺と妹はくすくす笑った。ふたりで居ると、よくカップルに間違われるのだが、ご夫婦、というのははじめてだ。
感想ありがとうございます。はげみになります。




