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妹は、俺が沈み込んでいるのは、空腹の所為だと判断したらしい。レストランへ行こうとひっぱられる。俺も、おなかすいたなとは思っていたので、素直に歩いた。ホートリットの騒ぎがあって、お昼ご飯を食べていないのだ。
エクシザについて話していた時は電源を落としていた妹のケータイへは、移動中、ひっきりなしに連絡がはいった。
世界各地でのUMA目撃情報に、オカルト研の子達はおおはしゃぎで、見に行けそうなところへすぐに行こうと準備をしているそうだ。ウモッカ捜索に行こうと積み立てていたお金もあるし、丁度夏休みで、普段よりは時間もある。ふたり、フランスに人狼さがしに行っているから、悪魔の目撃情報があったまちで合流しないかという話になっているらしい。アメリカのモスマン捜索チームも、謎の怪魚が目撃された港へ急行している。皆さんアグレッシブだな。大学生ってこんな感じなの?
「なっちゃん」と「あーくん」がインターネットでの情報収集担当らしく、こういう記事があったとかこういう動画がアップされてるとか、逐一妹に報せてくれている。妹はそれに度々、丁寧に返事していた。俺はふと疑問に感じて云う。
「お前、オカ研なん?」
「違うけど、あーくんとポルトガル語で一緒やって、授業でふたりひと組にって時に……この話長くなるからやめるわ」
妹に不本意な情報開示をさせることができるひとが居たら、呼んできてほしい。妹が口を噤んだら、拷問でも喋らせることは不可能なのだ。ちなみにおいしいものでも口は軽くならない。
同じクラスで親しくなったことがきっかけ、と思っておく。とりあえずはそれでいいだろう。妹の交友関係に、必要以上にくちばしをつっこんでもいいことはない。
ロビーの人数はまた増えていた。あちこちでお喋りに花が咲いている。不思議なことに、さっきよりは雰囲気がやわらかかった。なんだか立食パーティみたいだ。
キャラメルのような、芳しい香りがしている。
どうやら俺の依頼通り、フロントのひとが手配してくれたらしい。お客さん達は、甘い香りの湯気のたつ飲みものを楽しみ、運ばれてくるお菓子に歓声をあげていた。ウェイターさん達がにこにこ顔で、掌サイズのパイやビスケットを山とお盆にのせて、うろうろしている。どれも焼きたてらしい。いい香りがする。お酒の匂いはしないから、もめごとも起こるまい。
崖崩れに怪鳥に、大雨まで重なったのだ。お菓子とおいしい飲みもので現実逃避するのは、間違った行動ではないだろう。




