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妹は口ごもる俺に、心配げな目を向けてきた。俺は頭を振る。
「対処できるところなら、なんとかしたいけど」
「対処?」
「だって、危ないし……それに、多分、ほーじくんがしてることだから」
唾をのんだ。「封印をこんなに繰り返したら、魔力がどれだけ失われているかわからない。それに、封印できる数に限りがあったら、大変なことになる」
不安で口にしたくないことだったが、いざ喋ると少し楽になった。
妹は俺の手をぎゅっと握りしめる。俺の云っていることを、すぐにのみこんでくれたみたいだ。
封印のことはわからない。わからないことばかりだ。でももし封印が、多くの収納空間みたいに、つかう時に大きく魔力を消費したり、維持するのに魔力を徐々に徐々につかったり、そういうものだったら、ほーじくんへの負担はどれほどか、わからない。
特に、封印時間に応じてどんどんと魔力を消費していくタイプのものだったら、これだけの魔物を封印し続けることで相当な魔力を失っていることになる。
「フォージくんがしてるっていうのは、確実なん?」
頭を振った。妹は俺のせなかにそっと手を添えて、優しく撫でてくれる。「あの……魔物と、どんな話したのか、訊いていい?」
「ああ」
俺の声は、自分でも驚くくらい力がない。
ひとどおりはないし、雨の篠突くお庭にもひとは出ていない。廊下の電灯はやわらかい白で、俺達の真上で光を発している。
俺はぼそぼそと、エクシザの話をした。ひとに聴かれたくないから低声だというのもあるし、あまりしっかりした声が出ない。おなかがすいているんだと思う。
エクシザについての話を聴くと、妹はふーっと息を吐いた。背凭れに体を預けて、額をおさえている。「……よかったやん。人間、襲ってなくて」
「ああ。そうだな」
それには心の底から同意できた。エクシザが人間に興味のない、グルメな魔物でよかった。
風で木々が揺れているのが見える。でも、窓はちっともがたつかない。たった一枚のその隔たりで、あちらとこちらは別世界だ。
こちらの世界とあちらの世界も、これくらいわずかな違いしかないのかもな。そうして、ほんのちょっとのことでこちらからあちらへ行ったり、あちらからこちらへ来たりしてしまう。
妹が俺の手をぶんぶん振った。
「フォージくん、元気なんやって、思うんでしょ」
「ああ」
「元気やと思うよ、水佳も」
「ああ」
「お兄ちゃんが戻って、フォージくんに頼めばいいんよ。そんなに封印せんでって。フォージくんのこと心配なら、そうしたらいいやん」
なんでもない普通のことみたいに云われると、気が楽になった。




