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俺はフロントへ近付いて、女性のほうに会議室の鍵を返した。それから、お札を数枚たたんで、渡す。これで、お客さん全員に、なにか甘くておいしいものと、あたたかくてほっとするものを、と、お願いしておく。
お金は充分足りたみたいで、女性はかしこまりましたとこわばった顔で応じてくれた。すぐに従業員が呼ばれて、低声で指示している。
お部屋へ戻るつもりだったのに、妹が来るのが見えて、俺はロビーの端で停まる。ずんずんやってきた妹は怒っているようだ。
「ケータイは?」
「……あ」
収納したままだった。俺はポケットからケータイを撮りだし、軽く振る。
「ごめん」
「すぐにつかえる状態じゃないならケータイを携帯してる意味がないでしょ」
ご説もっともだ。俺は首をすくめ、ごめんと繰り返す。
妹はむっつり、不満げだ。俺の腕を両手でひっぱって、廊下をしばらく歩く。お庭が見えるように大きな窓があり、その傍にベンチがある場所についた。妹はベンチに俺を座らせ、自分も腰掛ける。それから低声で云う。
「変な生きものがどんどん目撃されてるみたい」
「ああ……そりゃ、困るな」
別に、本来俺は、あちらの生きものがこちらに来たって関係ないし、困らないのだ。
でも、今回の一連の出来事は、きっと、ほーじくんが関わっている。
エクシザだって、「羽持ちの人間」に封印されたのだ。あれはきっと、ほーじくんのことだろう。エクシザがほーじくんを知らないし、詳細な情報を伝えあえる情況ではないから、確定はできないけれど、蓋然性は高い。
だから気になる。そのすべてをどうにかできるとは思わないけど、近場で起こったことなら俺が対処したい。ほーじくんが、正しいと思ってやっていることなら、それがなんていうのかな、間違ったことになってほしくない。
ほーじくんは、魔物を封印したら弱ると思ってる。それが世界の為になる、人間の安全につながる、みんなの為になる、と。
それはあちらの世界に限って云えば、間違いじゃない。あちらの世界から凶悪な魔物が一体消え、その分世界は安全になる。
でも、こちらではその分脅威が増えている。
ほーじくんは知らないことだ。ほーじくんだけじゃなく、あちらの世界のひと達はそんなこと考えてもいないだろう。よその世界に皺寄せがいっている、なんて。
こちらで人的被害が出たりしたら、その行いが間違ったものになる気がする。ほーじくんが間違ったことをしていると思いたくない。
だから俺のわがままなんだよ。




