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ロビーはさっきよりもひとが増え、ざわめきが大きくなっていた。あまり、喧噪に近付きたくはなかったのだが、会議室へ行くには一旦ここを通りぬけるしかないのだ。
「マオさん」
シカタ夫妻が俺に気付いて、駈け寄ってくる。俺は立ち停まり、ふたりに会釈した。ふたりは不安と困惑のないまぜになった表情だ。
「あの……動物が暴れてるって聴いたんですけど、ほんとですか?」
「え?」
巨大怪鳥が目撃された! とか、大きな鳥が人間を襲った! ではなく、動物が暴れている、なのか。
その言葉が意外だったので、俺は思わずぽかんとしてしまった。シカタ夫妻はしかし、俺の反応にちょっと安堵したふうを見せる。
「ああやっぱり、デマですよね」
「こわがって損しちゃった」
「え? えーっと、あの……」
動物が暴れていたのはそうだが、もう暴れない。とりあえず、エクシザが人間を襲うことは二度とないだろう。だから、それに関しては安心していい。
なので、大丈夫ですよ、と云った。シカタ夫妻は微笑む。
ふたりと別れて廊下を歩き、しばらく行ってから、でもエクシザ以外のなにかがまだこの辺りに居るっていう可能性は充分あるのだ、と思い至った。
会議室前には白石くんが居て、鍵を渡してくれた。それをつかって会議室の錠を外し、なかに這入る。室内には木箱が積み上がっていた。
宝石の鑑定は、もう終わったのかな。それとも場所を移したのだろうか。
木箱は辞書くらいの大きさで、蝶番で蓋がとまっている。それを開けると、なかには切り刻まれた銀が詰まっていた。
箱ごと収納していく。これだけあれば、あちらでは億万長者だ。おじさん、随分はりこんだらしい。
辞書サイズの木箱をどんどん収納していくと、その下にふたまわりくらい大きい箱を見付けた。そちらの中身は銀の延べ棒だ。その箱も、ありがたく収納する。
会議室から銀のはいった箱をなくしてしまうと、俺は廊下へ出た。会議室に錠をかけ、その場を離れる。白石くんはもう居なかった。
また、ロビーへ至った。通り道だ。仕方ない。
さっきよりは人数が減っている。だが、雰囲気は相変わらずぴりぴりしていて、喧嘩でも起こりそうな感じだった。
ウェイターさん達がお茶と軽食を配り、なんとか雰囲気を和らげようとしている。それにしたって、お客さん達は辟易しているだろう。癒やされようというのか観光しようというのかは知らないが、折角旅行にやってきて、崖崩れでとじこめられた上に、謎の怪鳥騒ぎだ。いらいらしても、当然である。
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