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ここしばらく、この辺りでは晴天が続いていたのだが、その分をとりかえすみたいに雨が強くなってきた。ばらばらと屋根を叩く音も聴こえてくる。「あの子達、大丈夫かな。体がひえたら余計に具合が悪くなりそう」
「すぐに出発させたけん、もう下じゃろう。ハイヤーのなかなら雨の心配はねえし、ぬくい」
おじさんが席を立ち、5cmだけ開いている窓から外を眺める。すぐに窓を閉めて、戻ってきた。俺は云う。「酷そうだね、雨」
「ああ、ようねえな。崖崩れがなお、酷うなるかもしれん」
「みち、どうするの」
「裏道をなんとかつかえるようにしようっちゅうことになった」
「それ、聴いたよ」
「そうか」
おじさんはちょっと微笑んでから、表情を消し、ソファに腰掛けた。腕組みしている。「請け負うてくるるところは見付けたけん、一週間くらいでなんとかなるらしいわ」
「そんなにはやく?」
「特別料金じゃ」
おじさんはおどけて、眉を動かした。
「オーナー」
ノックもなく扉が開いて、支配人がひょいっと這入ってきた。後ろ手に戸を閉てる。支配人は乾いた服にかえていた。その体が、かすかに震えている。
おじさんは口を開けて立ち上がり、しかし声を発しなかった。しばらくして、ああ、と云う。
「支配人。よこうちょけち云うたろう」
「いえ、よこうてられません」
緊急事態に、標準語遣いが完璧な支配人が、方言を出した。妹が両手でマグを持ったまま、上目遣いでそれを見ている。すねたみたいな表情だ。
「真緒さまが追い払ってくれたからよかったものの、わたしらだけじゃ死んでました。あのばけもの鳥を、なんとか捕まえるか、殺してしまわんと、危険です」
「あ、……ああ、それは、そうやけどもやな」
「猟友会にはもう?」
支配人の問いに、おじさんはこっくり頷いた。支配人は満足げに息を吐く。猟友会に報せてあるのか。
まあ、当然の措置かなあ。俺はあいつを使役したことを体感しているから、もう(あいつ単体に関しては)心配していない。でも支配人や女の子達は、俺があいつを追い払っただけに見えている。猟友会に駆除してもらおうと考えるのはおかしくない。
でも、俺があいつを追い払った、ねえ。うーん、無理があるんじゃないかな。
だってホートリット、大きいし、敏捷だし、飛ぶし、魔法つかえるみたいだし、そんな簡単に追い払えるものでもない。
あいつが危険な魔物だって知らなくても、サイズや行動を見ていたら、なかなかにやばいものだって、わかるだろう。




