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支配人が、気を失ってしまった女の子を背負い、あおざめた顔で歩いていく。体はふらふらして、まっすぐ歩けていない。巨大な怪鳥に襲われ、相当な恐怖を味わったのだ。歩けているだけ凄い。
泣いて座りこんでいる女の子ひとりを、残りのふたりがなぐさめていた。きらきらしたケースにはいったケータイや、お弁当は、彼女達の足許に散らばっている。ケータイを拾おうとする子はひとりも居ないし、サンドウィッチは誰かに踏まれて食べられなくなっていた。
ゆでたまご、きゅうり、トマト、おそらくゆがいてほぐしたとり肉、オレガノ、バジル、フレッシュタイプのチーズ、なんらかのソースなど、サンドウィッチの具が無残にばらまかれている。パンはライ麦のものだ。若い女の子らしい、見た目がカラフルで綺麗、なおかつヘルシーなサンドウィッチだ。あれに無糖の炭酸水が付随したら最高の組み合わせだろう。妹もああいうものを好む。俺はなんでも食べる。
妹が両手を振りまわすようにして走ってきて、俺にぶつかり、ぎゅっと抱きしめてきた。俺は左腕を妹の体にまわし、右手で頭を撫でる。何回も、何回も。
「おにいちゃん」
「大丈夫だ。もう大丈夫」
ぎゅっとした。「なにもこわくない。お前は傷付けさせない。誰にも、なににも」
妹が泣いているらしいと気付いて、パニックを起こしそうになった。「お兄ちゃんが怪我するかと思うた」
「しない」離れた。「戻ろう」
「でも」
「心配ないから」
妹はまだなにか云いたいみたいだったが、もうなにも喋らなかった。俺はもう一度、サンドウィッチの残骸を見て、誰かがあんなふうになっていたかもしれないのだ、と思って震えた。
支配人が連絡したのだろう。従業員達と、看護師さんが走ってきた。従業員は大柄な男性と、年嵩の女性ばかりだ。看護師さんが女の子達の状態を見る。お医者さんは、気絶してしまった女の子を診ているのだと思う。
俺と妹は、女の子達のケータイを拾った。サンドウィッチはどうしようもない。見事にすべて踏まれ、食べられる状態ではなかった。
「もったいないな」
妹は子どもみたいな調子で云い、足の爪先でサンドウィッチの残骸をちょんと蹴った。仕種も子どもみたいだ。ショックで言動が幼くなっている。
俺は微笑み、妹の手をとった。「そうやな。でも、もうどうしようもないから」
「うん……おにいちゃん、もどったら、おかしたべよ」
妹はぎこちなくそう云って、やっぱりぎこちなく微笑む。この子に負担をかけたくはないのに、ままならない。




