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 笑いそうになった。ばかだ。俺はばかだ。

 支配人が戸惑い顔になっている。

「こちらの方々を案内するようにと云われています」

「ごめんなさい、事情がかわったんです」支配人に云ってから、四人に向けて頭を下げる。「申し訳ありませんが、今日は中止してください」

 がさりと音がした。俺はそちらを見ることはしなかった。ホートリットは随分弱っているらしい。耳鳴りを起こすような風を切る音はしない。状態異常は体力を奪い、そして弱まった体力ではまともに捕食できず、魔力が失われていく。そうやって徐々に、しかし充分な速度で死んでいく、死を身近に見ながら一瞬々々を過ごしていくのは、どんな気持ちなんだろう。

 あちらの世界は少し安全になっているのだ。ホートリットを一頭封印することによって。こちらの世界へ送り込むことによって。

 右方向からホートリットが叫びながら飛び出してきて、俺はそちらへ右手を伸ばし、叫喚と云った。


 女の子達は悲鳴もあげられない様子だった。ひっと息をのんで後退り、ひとりが足を踏み外して、ふたりがかりでそれを支える。残りのひとりはお弁当がはいっているのだろう紙袋を落とした。紙包みが転がりでる。サンドウィッチだろうか。

 支配人がまっさおで震えながら彼女たちの前に立って、そんなこと意味がないのに両腕をひろげる。お客の為に体を張ろうということらしい。支配人の鑑だ。

 ホートリットは耳障りな声をたてていた。怪我をしたり病気になって苦しんでいる犬のような声に聴こえなくもない。けれど可愛らしさも憐れさもない。

 魔法は多分あたった。だが、ききがよくない。俺が息を切らし、疲れていて、精神的にも安定を欠いているからだろう。

 ホートリットは地面に落ちているが、もそもそと動いて、俺を睨みつけている。上体を軽く起こして、今にもとびあがりそうだ。羽の途中に鉤爪のようなものがあるのが見えた。こうもりみたいに手があるのか。目がどんより濁り、くちばしの間からは唾液が垂れている。毛艶は悪く、胸の辺りはストレスでかきむしったのか、傷付いた肌が見えていた。冠毛も一部ぬけている。だが羽毛をふくらませ、精一杯俺を威嚇していた。

 くちばしはところどころが黒ずんでいて、おそらくなにかの血が酸化したものだろうなと思う。なにかを食べたのだ。それがこの辺に居る猪や鹿などの野生動物のものなのか、それともこんな生きものがこの世に存在するなんて考えてもいない人間のものなのか、俺には判断つかない。


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こちらも宜しくお願いします。 ループ、あの日の流星群
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