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みちは次第に下へと傾斜していき、それはどんどんきつくなっていった。俺達はくつのグリップ力が高いことを祈りながら必死におりていく。草木に囲まれていたが、ある地点で木が少なくなり、空が見えた。曇天だ。ホートリットは明るいのとくらいの、どちらを好むのだろう。どちらのほうが行動が活発になるのだろう。どちらのほうが危ないのだろう。
今はそんなこと関係ないのか。状態異常で、気が狂れる寸前か、もうおかしくなってしまっているのだとしたら、いつもの動きをするとは限らない。ヤラだって、最初に俺の前にあらわれた時は、チャタラらしい動きをしなかった。人間を踏み潰そうとするのではなく、周囲のものすべてに、やつあたりするみたいにとびのったりぶつかったりしていた。
大体ホートリットがいつもどんな動きをするかさえ知らないんだけどな。
勉強不足だ畜生。
押し殺した悲鳴のようなものが聴こえて、俺は必死に妹を追い越した。
こちとら、二年近くもアスファルトやコンクリートからとおざかっていたのだ。舗装されていないみちくらいなんのそのである。御山では、奉公人達は石畳のみちではなく、舗装されていない藪のなかを移動することが多いし、寧ろこういった場所のほうが素早く移動できる。問題は俺に体力がないということだけだ。
少しだけみちの幅がひろがった。傾斜がゆるくなる。この辺りなら、ケータイをかまえて録画することは不可能ではないだろう。きっとここ辺りを撮影する。そしてあの子達は、さっきロビーで見たように、喋りながら動画を撮るのだろう。ホートリットがその声に反応するかもしれない。
息を切らしてなおも走ると、四人と支配人の姿が見えた。全員ヘルメットをかぶっていて、楽しげに笑っている。さっきの悲鳴は、ひとりが足を踏み外しそうにでもなったかららしい。「もう、やだ。タイツ破れちゃった」
「落ちたら死んでたよ」
俺は息を整え、そちらへ歩いて行く。
「支配人」
声はあまり出なかったが、それでいい。大きな物音でホートリットをひきよせたくない。あいつらは敏捷で、強く、倒しづらい。それだけはわかっている。あいつの所為でリューさんがつらい思いをしてしまったことも、俺がその遠因であることも、忘れていない。
支配人が振り返る。四人も俺を見た。
「真緒さま」
「今すぐ……上へ戻ってください」
少しだけ距離をとって停まった。俺はへたを打ったのかもしれないといやな考えが頭をよぎる。なあお前、この間どうして妹をとおざけたんだったか、忘れたのか?




