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レストランからウェイターさんが出てきて、紅茶と軽食を配る。俺は紅茶を断り、ハムとレタス、スライスゆでたまご、からしバターとリッチなオランデーズソースという豪華なサンドウィッチをもらった。ここのレストラン、くいもののレベルが尋常じゃないよな。絶対おじさんの趣味。あのひとも國立一族らしく、食いものにはこだわる。
トゥスミア先生のことを考えるでもなく考えていると、両手でケータイを握りしめた妹が小走りにやってきた。「お兄ちゃんおはよ」
「ああ、おはよう」
「なっちゃん達からメッセージ来てて」
なっちゃん?
ああ、妹の友達だ。オカルト研究会の子達。
うん? もしかして、チャタラのことがばれた、とか云わないよな。あいつら見付かったらやばいぜ。
サンドウィッチのお皿をローテーブルへ置いた。口のなかのものを飲み込む。
なにか云うまえに、妹は俺の隣にぽんと座った。軽いので尋常じゃなく弾む。俺に一回ぶつかってから、妹はソファにきちんと座れた。跳弾でやられた感じなんですけど俺。エネルギー保存の法則。
ソファの肘掛けに脇腹をぶつけて苦しんでいる俺に、妹はひょいとケータイの画面を見せてくる。痛みで涙がにじんだ目ではよく見えない。「なに?」
「なっちゃんフランス語やってるんやけど、勉強で毎日フランス語のニュースサイトとか新聞とか、あと個人のオカルト研究家のブログとか読んでて、これ見付けたって」
涙を拭った。妹よ、多少は心配してくれ。
ケータイをうけとる。奇妙な日本語の記事だった。妹の話によれば、妹の友達のなっちゃんがフランス語のサイトで見付けた記事のようなので、翻訳アプリでもつかって翻訳しているのだろう。なら、日本語が奇妙なものになっていてもおかしくはない。体裁からすると、ブログかな。
翻訳されているとはいえ、奇妙な日本語なので、大意を読み取るのに苦労した。ところどころ絶対に誤訳だろうと覚しいものもある。わかりづら。
それでも苦労して読んだ。何度か読むと、なんとなくわかってくる。
「悪魔……」
多分だけどその記事は、フランスの田舎町で、悪魔が目撃された、というものだった。で、自分はまもなく現地へ到着する、とも書いている。「悪魔って、悪魔?」
「そう。それが、UMAか宇宙人じゃないかって、なっちゃん達はしゃいでて、会費積み立ててるからそれつかってフランス行こうって話になってるらしいんやけど」
妹は息を吸い、声を低める。
「それ、あっちから来た魔物やない?」




