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妹の眼力が凄まじい圧力を生じさせているので、俺は白石くんに、お握りの追加を頼んだ。白石くんはインカムで、おそらくレストランへ連絡をとりながら、出て行く。妹の目がやわらかく光っているので、窮地は脱した。
鑑定士さんが伸びをして、廊下へ出て行く。いれちがいで、部下のひと達が戻ってきた。箱に蓋をしたり、緩衝材でなにかをくるんだりと、てきぱき働いている。
鑑定士さんが、清潔な手巾で手を拭きながら戻ってきた。俺の隣に座り、にこっとして、いただきます、という。お上品にお茶をすすってから、お握りを食べはじめた。俺達と違い、ひと口が小さい。俺達は通常サイズのお握りは三口、もしくはふた口で胃に収めてしまうので、大口を開けてばくっとかじるのだ。
なんとなく会話しながらお握りを楽しんだ。追加がすぐに来たので、俺は妹に絞め殺されずにすんだ。
「あ、おじさんだ」
妹がケータイをいじった。ぱっと耳にあてる。「はい、水佳」
それから、ふんふん頷きながら、おじさんの話を聴いている。俺には聴こえない。
通話はすぐに終わった。妹はケータイ画面をタップする。
「じゅうたんとタペストリー、査定が終わったって」
「ああ、そりゃよかった」
そういえば預けてたっけ。ううっ、かつおぶしのお握り、震える程うまい。
妹はくすっとして、自分もまたお握りへ手を伸ばす。「タペストリーは、どれも50万以上だって」
「そっか」
タペストリーは、一番高いものが、多分貝貨十数枚程度の値段だ。たしか、貝貨5枚くらいで馬車を買えた筈。だから、こっちで云う軽自動車くらいの感覚だとする。タペストリーも、平均したらそれくらいの値段だ。
ってことは、かなり値が下がってしまったと云うことになる。そっか、なにもかもうまくはいかんわな。ちょっと残念だけど、こちらでつかえるお金になったんだからよしとしよう。仕方あるまい。
妹がケータイをこちらへ見せてきた。そこには、俺が手放したタペストリーが映っている。ネットで販売してるのかな、と思ったが、auctionの文字が目にはいった。
「このオークションに出品したらしいわ。ほら見て、値段がどんどんつりあがっていってる」
妹が画面を更新する度に、タペストリーの価格がふくらんでいった。お握りをむさぼりながらそれを眺める。かつおぶしは凶器でいいよ。実際かたさでひと殺せそうだし、こうやっておいしさで俺達を通風や肥満へと追いやってるんだから。
タペストリーの値段は、今は57000……うん?
むせた。表記が円ではなく、ドルだったからだ。




