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今日も今日とて、アクセサリなし短髪男性にどぎまぎしつつ、あんまりゆっくりできないまま大浴場を退散した。妹はまだ出てきていないようで、俺は大浴場前のソファに腰掛ける。
大きなTVが壁に掛けられていて、自由に見られるようになっていた。マッサージチェアに座った白髪頭のおじいさんが、今現在リモコンの所有権を持っているらしい。ザッピングしている。
ニュース番組で停まった。崖崩れの続報だ。俺はぼーっとそれを眺めている。
妹が出てきて、自販機でアーモンドミルクとフルーツ牛乳を買った。とことこやってきて、俺の隣に座る。フルーツ牛乳をさしだされた。
「どうぞ、お兄さま」
「はいはい」
「はいは一回でしょ」
お互いに笑いながら、飲みものの蓋を開ける。フルーツ牛乳はよく冷えていて、甘くておいしい。
「崖崩れ、どうなるんやろうね」
「ああ……」
「なんか、人為的かもとか云ってるけど」
ぼーっとしていて、ニュースキャスターの言葉が頭にはいらない。
パックをからにして、くずかごに放り込み、ロビーへ向かった。妹はケータイをいじっている。「あ、荷物届くって」
「え、裏道来たんかな」
「やと思う……ロビーでうけとる?」
「それがはやいなら」
妹が頷いて、ケータイ画面をタップした。
ロビーにはやっぱり、ひとが集まっている。「あ、マオさん」
「ミチヒロさん、エリカさん」
昨日、道案内した新婚さんだ。おそらく、俺達が通った時が、崖崩れの直前だったのだろう。あの時、ふたりを案内したのがいいことだったのか、今となってはわからない。
ふたりに妹を紹介した。なんとなく、四人でソファへ腰掛ける。
「すみません、こんなことになるなら、案内しなかったらよかった」
「そんなことないですよ」
「もしかしたら、マオさんに勝手についていって、崖崩れの瞬間にあの場所に居たかもしれないし」
それはそうかもしれないけれど、実際、こうやってふたりはあしどめをくらっている。
いつもつかわれているみちは崖崩れで通行止めだし、裏道は危険なのでなにかあったら責任とれないと、おじさんがお客さん達を停めているらしい。食糧の配送なんかは、普段は山小屋に荷物を運ぶお仕事をしているひと達を、特別手当で雇ったみたいだ。妹譚。
強行に裏道をおりようとしたひと達も居たそうだが、途中で旅行鞄を崖下に落としてしまい、まっさおになって戻ってきた。それは、ミチヒロさん達が見ていたことだ。成程、裏道を車でのぼりおりできるおじさんは、凄いってことだな。




