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お菓子の袋を沢山開けた。妹はポテトチップスを流しこむみたいに食べる。俺はひたすら草加せんべいをかじりまくっている。これだ。これをくいたかったのだ。あちらの世界ではこういうものは見付けられなかった。もしかしたらシアイルにはあるのかもしれないけれど、裾野にはない。
「これも持っていこうかな」
「ないの?」
「見付けられてない。ないかどうかはわからん」
俺が見付けていない=存在していない、とは限らないからな。
でも、あれだけいろんな村からものを売りに来る市場があるのに、そこでもみたことがないのだ。少なくとも、裾野では一般的じゃない。
草加せんべいなら、お米とお醤油だけでできてるし、安全だと思う。毎度のことだが、パッケージは収納空間から出さなければいい。
収納空間持ちが死んでしまうと、巾着切りでなくては収納空間に干渉できない、というのは、不便だと思っていた。でも、もし俺が死んでも、あちらにとってまずいかもしれない物体をばらまくことにならないのだと思うと、少しだけ気が軽い。
もし巾着切りが俺の収納空間からポリエチレンだのポリプロピレンだのをとりだしたとしても、ひとによっては還元できるっぽいしな。持っているだけでは天罰をくらいはしないみたいだし、なんとかなるだろう。
俺はなにも、あちらの世界に積極的に迷惑をかけたい訳じゃない。
ただ、あちらの世界で存在していたいだけだ。それさえ阻害されるのがあちらの常識なのだけれど。
悪しき魂が本当に悪いものなら、存在しているだけで天罰をくらう筈だとは、みんな思わないのかな。
お菓子休憩のあと、調理を再開した。ドライフルーツをまぜこんだやわらかい生地のドーナツや、カスタードクリームやイタリアンメレンゲをはさんだシューサンドケーキ、ズコットやシャルロッテケーキなど、こちらの道具(電動の泡立て器やシリコンべらなど、それになにより冷蔵庫と冷凍庫!)があればつくるのが楽ちんなものを中心につくり、収納しておく。
へぎも折り箱もなくなって、疲れたのもあって辞めた。
「温泉つかりたい」
「俺も」
「せなか流してあげようか?」
「いらん」
妹はにやにやしていて、俺はむくれた。「兄をからかわない」
「ええー? 本気やけど」
「いいよ、いらんってば」
「うん。わかってる」
妹はそう云って、くすくす笑った。女の子ってわからない。いや、妹だけかな、こういう言動は。
とりあえず温泉にはいりたいのは本気なので、俺達は準備を整え、大浴場へ向かった。




