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乱暴に結論を出してしまった妹に、俺はしかし反論できず、結局妹に手伝ってもらって調理をはじめた。まあ……よしとするか。
あまり深く考えたらだめだ。事実として、妹はジーナちゃんのクッキーを食べても平気だった。ってことは、材料に触れるくらいなら大丈夫だろう。
「つまみぐいするなよ」
「はいはい」
「はいは一回」
「はーい」妹はいたずらっぽく笑う。「だって、大好きなほーじくんに食べさせるんやもんね? お兄ちゃん?」
鼻をつまんでやると、妹は痛い! と大げさに喚いた。俺はもう一度、きちんと手を洗った。お料理前の手洗い大事。
キッチンは小さなものだし、コンロはふた口、オーブンはついていない。こったお料理はできなかった。
野菜炒め、とか、コーンスープ、とか、フライパンで焼いたケーキ、とか、そういうものをつくった。できあがったものは、あちら製のお皿にのせたり、へぎで包んだりして、収納しておく。
妹は自分から手伝いを申し出ただけあって、ばりばり働いてくれた。俺の指示にわかった、とか、どれ? とか短い言葉を返すだけで、お喋りもない。まったくもって、助手としては最高だ。
お昼まで作業をすると、だいぶ疲れた。かわりに、収納空間には沢山の調理済みの食べものが増えている。
「え? ヴァニラビーンズそんなに安いん?!」
いったん休憩して、こちらで買ったお菓子の袋を開けて食べていると、妹が素っ頓狂な声を出した。俺が、あちらでどんなものを買ったか、というような話をしていた時だ。
「うん」頷く。「安いよ。それでもセロベルさんは……あ、わかるか?」
「お兄ちゃんが勤めてた旅館の主人」
「ああうん。そのひとはさ、香りをつけるだけのものなのにこの値段か? みたいな反応だったんだけど、実際それつかったお菓子食べたら、適正価格だって思ったみたい」
「いやいや、適正やないわ。安すぎる」
それには同意する。ヴァニラビーンズもだけど、香辛料全般がかなり安かった。あとは、はちみつ以外の甘味料。
多分だけど、お砂糖やシロップの大半が、還元によってできたものだったんだろう。コーンシロップなんかはその典型。
虫歯がこわい世界だが、恢復魔法である程度はなんとかなるみたいだし、そもそも歯磨きという概念がきちんと定着していた。裾野のひとは、男性でも歯はかなり綺麗だったな。ほかの地域の男性はビミョーだったけど。女性は、歯に修復者の加護があるとされているので、絶対におろそかにしない。




