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「おじさん」

「おう」

 おじさんは不機嫌だった。とても。

 俺は妹と目を合わせ、それからもう一度おじさんを見る。おじさんは廊下へ向かっていった。

 妹と一緒に追った。「どうかしたの」

「どうもせん」

 おじさんはそう云って、ふんと鼻を鳴らした。「俺が金を出してすぐに修繕するちいいよるにい、しらべがどうのこうの。しちくじい」

 お金を要求されて怒るのではなく、断られて怒る辺りがおじさんだ。


 歩きながら、おじさんの話を聴く。崖崩れの辺りは県道らしい。それを、おじさんは自費で直すと豪語した。だが、実況見分がまだ終わっていないので、どうにも手のつけようがない。

 で、おじさんは諦めが悪い。同窓生に、もと・県会議員とか、もと・官僚とか、もと・国会議員とかが居るらしく、今朝はやくからそういうひと達に連絡して、はやくみちを直したいから口利きしてくれと頼んだ。でも、すべて断られたらしい。

 それはまあ、どちらかというと健全な話だ。いろんな手続きやらなにやらを飛び越えて横車を押すというのは、どう考えてもだめだろう。おじさんの理念はいいかもしれないが、世のなかにはルールというものがある。

 けど、おじさんにとっては、自分の旅館に泊まっているお客さんに不自由をさせるのは、本当に屈辱的で耐えがたいことのようだ。歯をきしらせて悔しがっている。

「あげなもん、ちゃんとした会社に頼めば何週間もかからん。金も何億か、かかっても十何億かですむわ。それを、しらべがあるち、みちがあのままじゃあお客さんに裏道を通ってもらうことになるじゃろうが。そげな危ねえことはさせられん」

 会議室に這入りながらおじさんはそう吐き捨てた。会議室内には、鑑定士さん、その部下のひと達、それに支配人が居る。ああ、残っているもの、出しておくの忘れてた。

 おじさんは溜め息を吐きながら椅子に座り、支配人がそれに書類を渡した。おじさんはいらいらした様子で書類に目を通し始める。妹がその隣に座って、書類を覗きこんだ。

 おじさん、ハプニング的に開始した旅館業だったのに、かなりこのお仕事が好きみたい。というか、ひとが喜ぶことをするのが好きなのかな。サービス精神の塊だ。

 鑑定士さんは、ちょっとの間、戸惑い顔でおじさんを見ていたけれど、おじさんのいらいらの理由がわかったんだろう。にこっとして、作業に戻った。こういうのって、小学校からの付き合いなりの距離感というか、なんというか。友情って感じがする。いいな。俺は友達、居なかったからさ。


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