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ほかの部分はよくわからんが、怪我人なしは奇跡という部分は俺も頷けた。旅館への送迎バスが通るみちなのだ。運が悪かったらバスが転落していたかもしれない。丁度、カーヴのところだそうだし……。
「おはよ」
「おはよう」
妹が起きてきて、隣に座った。と、顔をしかめる。「うわ、なんか大事になってるやん」
「こういうとこ、全国にも沢山あるんだってよ」
さっき手にいれたばかりの知識を、さも前から知っていたみたいに披露した。妹はそれはスルーして、TV画面をくいいるように見詰めている。
「これ、大丈夫かなあ」
「なんとかなるんじゃない?」
「そういう意味やなくて。ここ、旅館の送迎でつかってるみちやし、おじさん達が責められたりしたらいややあわたし」
妹は心配そうに云って、錠剤のシートをとりだした。数をたしかめてもとに戻している。
ロビーへ行って、崖崩れが大変なことなのだと身にしみた。従業員達が慌ただしく動きまわり、お客さんに捕まってはなにか説明している。不安そうなのは説明するほうもされるほうもだ。
のんびりと、なにも起こっていない、みたいな表情のお客さん達も居るけれど、半分以上はそわそわしていた。多分、チェックアウト間近か、チェックアウトしようとしているひと達が、焦っているのだと思う。荷物を手に所在なげにつったっているひとを数人見た。ここから出られるのか? という不安じゃないかな。出られない場合ここに泊まれるのか、っていうのもあるかも。金銭的な面でも、あき部屋数の面でも、心配は尽きまい。
俺は傍らの妹を見る。「やばそう?」
「どうやろ」
妹は肩をすくめ、落ち着いた様子でフロントへ近付く。俺もそれについていった。チェックアウトや、みちがどうなっているのかというお客さんの必死な問い合わせに、フロントのふたりは時折困った顔になりながらも、丁寧に対応していた。
「林さん」
「真緒さま」
呼びかけると、フロントの林さんはちょっとだけ泣きそうな顔になってこちらを向いた。妹がカウンタに手を置く。「みち、どうなってます?」
「それが、昨夜遅くから、通行止めです」
あらら。
さっきのニュースではわからなかったが、今現在はみちの前後にテープが張られており、警備のひとが立っている。通ったらいけないそうだ。
「まだ、崩落の危険性があるそうでして」
「そうなんですか?」
林さんがはいと答えた時、玄関からおじさんが這入ってきた。どうも、怒った様子で。




