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食器を従業員にひきとりに来てもらい、戸締まりをしてから、文房具のことを妹に相談した。俺の要領の悪い、とりとめのない、わかりにくい説明を、妹は真顔で頷きながら聴いている。
「じゃあ、お兄ちゃんが持っていってつかってたボールペンは、大丈夫やないの?」
「そうかなあ」
「天罰って、どんな立場のひとにでもあるんでしょ。お兄ちゃんはそのボールペンをつかってても平気やった訳やから」
「ああ……それはそうかも」
もしボールペンがまずいものだったら、それをつかうなり持つなりした段階で、即座に天罰がくだっていただろう、ということか。それは、そうかもしれない。
裁定者がなにもなくても「悪しき魂」について質問していた、という例がある。御山ではなにもなくても、御山が把握していない天罰はありませんか? みたいに質問することはありうると思う。天罰って、そうと気付かないで放っておいたら、尚更神さまを怒らせそうだもの。
俺はあっちに二年弱居たから、年に一回の質問だとしてもひっかかる。もしあのボールペンをつかったことが神さまの気に触ったんなら、それが俺にわかる筈だ。
妹がこっくり頷く。「鉛筆は、まぜもんの少ないやつ、さがしてみるわ。なかったらごめんね」
「ああ」
「それと、まんが描くひとみたいなペンやったら、持っていっても大丈夫やないかなあ」
ああ、ああいうのなんていうんだっけ。あっちの世界ではああいうペンもあった。
羽根ペンは案外、つかうところをそんなには見ていない。多いのはやっぱり、宝石や純金、純プラチナを棒状にして先を尖らせ、溝をほったもの。あと、まんが描くひとみたいなペン。
鉛筆も、つかっている場面は結構見たなあ。公的な文書ではあんまりつかえない、ってだけで、普段はあれをつかってるひとが多い。還元でできるんだろう。あの世界で大量に流通しているものというのは、大概が還元でつくれる。
妹は文房具の手配もしてくれるそうだ。その約束をしてから、俺達は隣り合った布団で眠った。何回か目が覚めて、妹が息をしているか確認した。なんだかとてもこわい。
翌、八月七日。朝はやくに目が覚めた俺は、歯を磨きながらTVのニュースを見ていた。崖崩れは全国ニュースになっている。地盤の強度がどうのこうの、雨がしみこんでどうのこうので、専門家が凄く渋い顔で解説していた。こういう危険な場所は全国に幾らでもあって、氷山の一角で、怪我人が出なかったのは奇跡みたいなものらしい。




